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小説|晩産のたしなみ。

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いわゆる晩婚、もしかしたら「晩産」に至れるかもしれない40代のリアルデイズ……。いちコピーライターとして初めて書き残したくなった自分ごとは、苦節9年、不妊治療の行末でした。普通の…
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2021年8月の記事一覧

DAY8.  意味するもの

DAY8.  意味するもの

 宣告は突然だった。少なくとも、私の体感としては。

 医師たちはきっとこのことを予期して、それができるだけ突然にならないようにと何度も予防線を張ってきたのだろう。

「うまくいく確率は33.3%」「かなり成長が遅い」「子宮外妊娠かもしれない」「これが赤ちゃんを包む胎嚢だとしたら、形がいびつ」「見える位置もおかしい」「一番考えられるストーリーは、このまま流産すること」云々。

 それでもやっぱり、

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DAY7. いのちの薫り

DAY7. いのちの薫り

 蝉の声が、半月前とはだいぶ風情が変わった気がする。

 あれだけヂリヂリと甲高く耳に刺さるようだったのが、ジワリジワリとどこか湿気を帯びて、およそ立秋を迎えたとは思えない汗ばむ熱帯夜を覆いつくすように漂っていた。

 夜、都心からだいぶ離れたこのあたりでは人気のなくなる頃合いがあり、私はときどきこの川沿いをそぞろ歩く。今の家へ越してきてからまだ一年も経っていないが、近くにこの川があったのは大きな

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DAY6.  執行猶予

DAY6.  執行猶予

 先が、長すぎる。

 いや、「先」なんてものを考える余裕がないくらい、不確実なことが多すぎる。あまりにも謎だらけで、だからこそ神秘的で、これはもはや、宇宙や地底の全貌を解明するのに匹敵するくらいのことなんじゃないかと感じている。

 妊娠が、継続していた。 

 最初にことが動いたのは、胚盤胞まで育った受精卵を子宮に戻してから1週間後の、いわゆる判定日。不妊治療7年目にして、初めての妊娠判定を受

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