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小説「ヴァイオレットフィズ」

改めて、長編小説「ヴァイオレットフィズ」について紹介しようと思います。

キャッチコピーにはこう書かれています:

SF作品だが、恋愛小説か謎解きか推理か文芸なのか、旅行記か詩集か、過去の実話か現代の記録か未来の推定か。冒険なのか無謀なのか、幸運か不幸か、解けるのか解けぬのか、都心なのか郊外なのか、一人なのか複数なのか。この物語にはいくつものキーワードが絡み合っている。

この文字通りですが、基本的にはSF小説なのだと途中で分かりますが、ヒューマンドラマ分野かと初めは思うでしょう。人は、多分人生で一度くらいはドラマティックな場面に出くわします。それは恋愛面?仕事面?生活面?など局面は表現が一つではないでしょうけれども、ちょうどそれが描かれています。物語の中で自分が主人公だったなんて、この歳になるまで気づけなかった。そう何年も経ってから思うものです。それが人生の後悔になるか、思い出になるか、それも本人次第のような――。でも、素敵な物語です。美しくも有ります。詩的でもあり、読みやすくもあり、旅行記のようなそして未来SFのような、都会と郊外も混じり合います。

小説「ヴァイオレットフィズ」解説

投稿された詩を見つけた亜紀は、その詩が背景となる地へ旅に出た。旅先で出会った看板の無い店の店員の山野は優しく道案内をしてくれるのだが、亜紀が山野に何かの変化を与えていた。亜紀が結び付けてしまったのは詩の投稿者と誰なのか。山野がここにいる理由と断片的な記憶の欠片は混迷の中に。知らずと関わる亜紀は、姿の見えない投稿者とその詩の背景を解くことができるのか。山野の境遇に自分を重ねる亜紀。亜紀の詩をきっかけに記憶の欠損に気付いてしまった山野。ふたりが始めた謎解きに、解いてはいけない過去が浮かび上がる。

亜紀と山野のふたりを、ずっと心で応援してしまうあなたがきっといます。きっと現われると思います。(^^)
なぜそうなったのか? 謎が深まりながら先を進めずにはいられないでしょう。

小説「ヴァイオレットフィズ」先行サンプルです。第1章を掲載します。

     一
  
転職したのはちょうど三十歳の時。私の年齢と職場のニーズが適合していたから、それは幸運だったと言える。
友人と言うほどの明確な友はほとんどいなかったが、昔の同級生や元の会社の同期で結婚退職したという人の噂がよく届く。今時、女が仕事一筋で「結婚なんて眼中に無い」と言っても肩身が狭いということもない。
理系志望ではあったが、学歴と前職の経歴からは技術職とは言いにくい。前の仕事は技術者の裏方みたいな職種だったので、私は言わば〈微妙な理系女子〉。微妙ではあるが、一応〈リケジョ〉なのだ。
「はい。理系です。少なくとも意識は理系です」
その言葉が面接官の心を捉えたように見えた。
「川島さんは技術の事務管理をしていたと聞いているのですが、その辺を表現しているのかな? その、今おっしゃられた理系の意識という言い方は。うん、まあ、いいでしょう。今、私達が求めている人材は川島さんに近いかもしれませんよ。技術メンバーのいる、ど真ん中の理系の職場ですが、書類をまとめたりする事務方のような存在が必要でしてね」
「それなら! ああ、すいません。それでしたら、ぜひ私を使ってください。きっとお役に立てるかと思います。理系用語をたくさん知っているわけではありませんが、全く抵抗がありません。電子ツールも大好きです」
「そうですか。それは良かった」
『良かった』というキーワードを聞いた時に、この会社に入れるかもしれないとの直感はあった。そして今の職場に就けたのだ。
独り身だし、実家には仕送りをしていたがその額は大きくはないので、それほどの高給ではなくても職に就ければそれだけでも良かったのだ。それなのにこの会社は、飛び込みの転職にしては給料が良かった。不満はほとんど無いと言ってよい。休みも暦通りにもらえる。さらに、この会社の売りだと誰かが言っていたが、休みに特別な仕組みがある。勤続二年目からは五日間連続の休日〈リフレッシュ休日〉、通称〈リフキュー〉という名の休みが取得できる。有給休暇取得率の低い人に限り、自分の有休残り日数を使って連続五日間の有休が取得出来る。五日間取得なので少なくとも必ず一度は土日を挟むことになり、連続七日間以上の休みが取れるわけだ。
この就職は、二十代の下り坂の人生感から救われる良い出来事だった。私の二十代を締め括る出来事なんて、人生最悪の場面だったもの。転職後にとびきりハッピーな予感があるわけではないが、少し落ち着いて人生を過ごしていきなさいとご先祖様が救ってくれたのかなと、そう感じたくらいだ。
 
# 
亜紀へ。申し訳ない。でももう気持ちが無くなったのはお互い様だよ。俺にも好きな人ができた。お互いにお互いの道を進もう。
〈寺井翔〉
# 
 
もしかしたら、本当は私には合わなかった人だったのかもしれない。今ではそう考える事にしている。いいや、ほとんど考える事はしない。思い出すことはしないようにしているからだ。出身が関西だとは聞いたことはないが、喧嘩の時には関西弁で怒鳴るのが嫌だった。結婚してもうまくはいかなかったかもしれないし。元彼の寺井翔は茶色の髪質だったけど、一皮剥けた私は多分、茶髪の男性を当面好きにはならないと思う。
そうなって私は、自分のそれまでの生活を一新したかった。部屋の家具だって出来るだけ捨てようと考えた。
転職を機に引っ越しをした時、私に選ばれて継続使用を決められた家具は多くは無かった。残された中のひとつ、このディスプレイとキーボードが組み込まれた机の一式はとても愛着があった。だが、思えばまだ十代だった頃、詩をしたためた道具は今のディスプレイとキーボードではない。その頃一般的だったのは、もう少し『物体感』のあるキーボードだった。アルファベットのボタンがちゃんと押せて、カチッという音と共に指には反動が返ってくる四角いボタンの集合体だ。私はしかし、一度ペンで紙に書いてからスキャニングを音声で頼むという方法も使っていた。「スキャンニング」と命令して自動的に文字を変換するのだ。まだ若い頃の、それは昔懐かしい、私にとっての最も古い実記憶の中のひとつだった。(かすかに覚えている。あの時の私。もっと机が大きく見えて、ペンを持って書いていた……)
三十三歳の今、私はもの凄く時間が過ぎていると思ったが、遠い記憶の断片を目を閉じて手繰り寄せていた。
今の机は、私が大学生になってからアンティーク調の物がとても欲しくなって新調したものだ。古代ローマの建築物の柱に彫られているような唐草に似た模様。肘から手首までの腕の一部が触れる机の角にも垣間見える。その部分は凹凸があって、肌で触れると愛おしくなるような、愛着の湧く感触がある。角から手前の側面には、引き出しとも基調を揃えてその模様が配ってある。現代の通信機器特有の金属系装飾の冷淡さ、これがなるべく表に出ないもの。それが私の欲しかったデザインであって、購入意欲の源だったが、この机はベストの買い物だと思ったものだ。
「パーソナルアルバム!」
私は机の上の何もない空間に向いて喋りかけた。
低く小さな音で、しっかり聞けば「グゥゥー」と聞き取れる電気だか何かの音が鳴って、机上の空間には薄紫色でほとんどは透明のディスプレイが浮き出た。続いてアンティークの唐草模様に目を移すと、そのちょっと上には同じように半透明のキーボードが浮かんできた。キーボードの方は質感が増して、徐々に透明さを無くす。すると、同時にその位置に意図せず置いていた私の右手に物体感が現れて、わずかに押し上げられた。キーボードの仮想物理体が私の手を下から二、三ミリ程度押し上げたのだ。キーボードは白かった。文字は灰色で四角いボタンの左上にはっきりとしたブロック体で表示されている。白いキーボードは古代ローマの柱と同じイメージだから、机を買う時に白色を選択したのだ。これも私のお気に入りだった。
「暗証コードは確か……」私は確実に思い出してはいなかったが、キーボードに乗せた指が自然と動くのに任せてみた。
〈0403〉とそう入力する手の動きが不自然なく流れるように出来た。
(これかな?)
正解かどうか曖昧なまま、次の瞬間に画面に文字が出たのでホッとした。
「合ってた。0、4、0、3ね。やっぱり誕生日じゃないの! あら、簡単」
私の暗証コードは、自分の誕生日にしていたようだ。
ほぼ透明のディスプレイには、紫色の霞のような色味の中から文字が並び出す。〈亜紀のアルバム〉と出ていて、数行続いてアイコンが表示されている。〈写真〉、〈映像〉、〈その他〉だ。〈映像〉のコンテンツには、私の記憶にも鮮明に残る物が並んでいた。例えば、〈幼稚園運動会〉には、大玉転がしリレーの競技に出ている私とか、園長先生に記念品を渡されている私とか、たくさんの友達とかが映っているはずだ。いつかの昔に映像は両親と見ていた事がある。そして、私は〈その他〉の階層を降りてみた。音声とキー操作の両方を使って検索すると、初めて記録に残したきっかけとなっている詩を見つけた。
それは私が十七歳の時のだと分かる。
 
# 
私は川島亜紀。
今は十七歳。
忘れないように書いておきたいから、ここに記しておくことにします。私がなぜ詩を残すことにしたかっていう説明です。
# 
 
私は文字を読みながら、十七歳の頃を回想していた。今の年齢からは半分くらいだった歳。若々しくて、人生の落胆なんて知らなかった。楽しい高校生活だった。今考えればとにかく未熟な未成年だったのに、「人生って楽しいものだ」なんて考えていた。私は十分に大人になっている。そう思ってた。反発する場面に限ったことではないが、周囲の大人に向けた思考は常に自分中心だった。
自分なりに人生の残りの過ごし方を想像して、校庭に埋めるタイムカプセルのような遊び心半分で書いていたに違いない。遠い昔に感じるが、読むと回想が時間感覚を狂わせてくれる。記憶は当時の場面を黄金色に着色して私の頭の中で見せてくれる。私は無言で思い出していた。

(以上が第1章です。以降は↓↓↓から手に入れてください。)

最後に、ここだけの特別なKeywordをご紹介しましょう。

「ヴァイオレットフィズ」はカクテルの名前ですが、スミレのリキュール、レモン果汁、シュガーシロップ、炭酸水で作るカクテルです。カクテル言葉(酒言葉)は「私をおぼえていて」という意味があり、またスミレのリキュールの「パルフェタムール」はフランス語で完全なる愛という意味があります。

『私をおぼえていて』

どういう事なのか、確かめる旅に出てみてはいかがでしょうか?
ここで手に入ります。すぐにお手元に届きますので、物語に入りましょう。


※酒言葉はこちらのサイトの文面から引用しています。

★こんな内容ですが、最後まで読んでくださった方々、ありがとうございます。💗

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