無趣味な私の趣味は喋ること
最近ようやく気がついた。
自分の趣味は喋ることなんだ、と。
いわゆる趣味がないと気づき始めて、早10年が経つ。つまり、現在29歳の私は、貴重な20代を無趣味で過ごしてしまった。
そして同時に趣味であったり、好きなことを明確に言葉にできる人に憧れを抱き続けてきた。
「休みがもっとあれば、やりたいこと山程ありますよ」
と先日飲みの席で友人は言った。好きなアーティストのライブ映像をみたり、本を読んだり、お気に入りのカフェに行ったり。事実、そう語る彼女が私にはひどく楽しそうに見えた。そして、それぞれは彼女の趣味だという。
かくいう私は、突然休みができるとアタフタしたり、何をするわけでもなく一晩が明けたりするタイプだ。そして、虚無感や寂しさに苛まれる。そのとき毎度のように「趣味でもあれば」なんて思う。
ただ、私は他者から見れば割りと多趣味らしい。旅行に行ったり、料理したり、本を読んだり、文章も書いてみたり。最近はバイクにも乗り始めた。
なのに、それぞれについて趣味であるという自覚がない。
一応、一方で、私の趣味についての下馬評No.1は旅行だとも認識している。事実、年に一回は海外旅行に行ったりもする。そんな旅行について、ここ数年、行く先々でこんなことを思い始めているのだ。
「今の気持ちとか感想、誰かに喋りたい」
これはSNSで共有したいという意味ではない。直接話して誰かに伝えたいのだ。
あの料理が思ったより辛かっただとか、よくわからない虫が居たとか、小粋なおじさんに会ったとか。
思えばこれは何も旅行だけではない。バイクのエンジン音がいつもと少し違う気がする、あの本の一節に心打たれた、いつもより味噌汁の味が濃いなんてことも誰かに話したいのである。
「男のくせにベラベラ喋るな」
と幼少期は祖母によく怒られた。一方で、それくらいに喋ることは珍しく昔から好きなことだった。
そのせいか、今も初対面の人だろうが数時間話すのは苦でないし、最初は興味のない話でも質問を交えながら最終的には楽しく聞かせてもらえる方だと思う。
先日、「趣味がないんですよねー」なんて話題で会話が広がる場面があった。なんとも暗い話題ではあるが、その会話をした時間自体は私にとってとても楽しい時間でもあったのだ。だから、そのとき思ったわけである。
喋れれば、話題なんて何でもいい。
つまり、趣味は喋ること。
旅行でも、料理でも、バイクでも。
はたまた普段は縁遠い美容やダイエットの話、なんなら少し下世話な内容でも構わない。もはや究極、内容なんて無くてもよい。
そう思えるくらいに、誰かと喋ることだけは自分が自信を持って好きと言えることなのだ。
だからもう無理な趣味探しはやめにしようと思う。そして今後は、喋るという趣味をより一層楽しむために、様々な出会いや経験をもっともっと重ねていきたい。
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