「移動」しない旅を楽しむ ~お伊勢参りというヒント~
江戸時代のお伊勢参りでは、旅の思い出を披露する会が開かれたそうな。
そこに「移動」しない旅のヒントが隠れているかもしれません。
「移動」回避時代と旅
コロナ禍によって、移動が制限されて久しい。
いくら非常事態宣言が解除されたとて、移動の制限は様々な方面で様々な人々に影響を与えている。
私に一番身近な所でいえば、旅や観光である。
いつか農業体験農園や農泊といった事業を起こしたいと妄想を膨らませる私にとっても、これからの「移動」の行く末は非常に気がかりではある。
私は大学院まで旅や観光を研究対象に据え、そこで起こる人と人の交流に注目してきた。人々の移動はその大前提だった。
しかし、これからの生活様式ではその交流という行為自体が忌避される恐れがあるし、そもそも当面の間は移動それ自体が増えることはないだろう。
私は旅や観光を研究するにあたり、移動や交流というものをどこか自明視し、それが無くなる可能性をどこかで棚上げしてしまっていたのだと思う。
もはや現代は「移動」回避時代に突入してしまったのだろうか。
これからはもしかすると、「移動」しない旅なんてものを本気で考える時代なのかもしれない。
お伊勢参りとお伊勢講
他方、人々が移動し始めた、特に旅や観光といったような意味で自由に日本中、世界中を移動し始めたのは、まだまだ最近の話だ。
多く見積もっても、50年以内といったところだろう。
殊、昔の日本において、旅は今以上に、特別なイベントだった。
さて、江戸時代における「旅」イベントして、言及しないわけにはいかないのが
「お伊勢参り」
である。
当時、庶民の移動、特に農民の移動には厳しい制限が設けられていたが、「お伊勢参り」だけは許される。そのような風潮があった。
とはいえ、「お伊勢参り」にはカネがかかる。
そのため庶民たちは「お伊勢講」という組織を作り、定期的に皆でカネを積み立てていた。
「講」に集まったカネを利用して、代表者がお伊勢参りに行くという訳だ。
しかも、代表者は主にくじびきで決められたという(当選者は次回のくじ引きには参加できない)。
代表者は道中で流行りの音楽や芸能を楽しみ、最新のファッションや農機具を持ち帰る者までいたという。
つまり、お伊勢参りから手ぶらで帰ってくることは、タブー視されていたのだ。
これは今にも生きる「土産」の始まりだともいわれている。
旅の思い出を共有する
また何より面白いのは、代表者が集落に帰ってくると、代表者は旅での見聞を集落の人間に伝えていたという事実だ。
帰郷の宴が催され、旅の思い出を語る。
いわゆる、土産話である。
場合によっては、紙に思い出を書き留めておくなんてこともあったらしい。
旅の思い出を聴いた人々は、自分もお伊勢参りをした気分になったのであろうか。
他人の土産話から、旅情に心を躍らせていたのであろうか。
もし彼らが他人の旅から旅情を味わっていたのなら、まさしく「移動」しない旅を実践していたといえるだろう。
「移動」しない旅を楽しむ
「移動」回避時代はいつまで続くのであろうか。
旅的なイベントも、もしかすると遠方への出張なんてことがない限り、その頻度は極端に下がるかもしれない。
もしそのような方向に時代が進んでいくのなら、我々はどのように旅情を味わえばいいのだろう。
そのような時、ヒントをくれるのはきっと「お伊勢参り」だと私は思う。
自分の旅だけでなく、他人の旅にも興味を示す。
つまり、「移動」しない旅を楽しむということだ。
旅という素晴らしい経験を分かち合うことが、令和の時代にも求められているのかもしれない。
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もちろん私自身、これからの人生で、会いたい人、行きたい場所、聴きたい音、食べたい味なんていう風に、とにかく「旅」に出たいのです。
そのため、今の状況は少し心配でもあります。
ただ、この「旅」に出られたない時期は、自身にとって「旅」がどれほど重要なのかを見つめ直すタイミングなのかなとも思います。つまり、
・旅を私自身だけで、ただひたすらに消費するのではなく、その感動を皆に伝えること
・また誰かの旅を心から祝福すること
が今後、私が私自身に課す至上命題となりそうです。
これはきっと江戸時代の日本人がお伊勢参りを通して、実践していたことなんだと思います。
今私にできることは、ちょっと昔の旅行記を読んでみたりしながら、旅情を自分の中で深く味わうこと、すなわち、「移動」しない旅を楽しむことなのかもしれません。
それはきっと「移動」する旅と同じくらい、味わい深い素晴らしい旅として私の人生に大きな影響を与えてくれると信じています。
というわけで、今日はここまで。
お読みいただきましてありがとうございました。
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