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「お前、トガってるな」~私と唐辛子の早朝問答~

でも、彼は毎度、西を向いている。

西向くアイツ

畑の唐辛子たちの99%は東を向いている。

なぜなら、畑に西日が当たりづらいからだ。西側の耕作放棄地に大木が生えているせいで、西からの日光、すなわち午後の光が入りにくいのである。そのため、彼らにとっては東から昇る朝日が一番の光合成のタイミングとなる。そのせいか、なんなら幹ごと傾いている株まである。彼らの日光を求める貪欲さには感心するばかりだ。

しかし、そんな東に向かって伸びる唐辛子たちの中で、一株だけなぜか西をに向く奴がいる。その株を見るたびに、

「お前、トガってるな」

なんて思うのである。

「君」と「お前」

不思議なものだが、100本を超える唐辛子を相手にしていると、心の中で彼らを「君」だとか「お前」とか呼び始めてしまう。

とはいっても、なんだかんだ情が湧いているせいか、大半の株には「君」と声をかけていることが多い。そのため、西を向く彼は、数多くある唐辛子の中で唯一、私が「お前」と呼ぶ一本なのだ。

大体畑には朝6時~7時頃に出向く。最近はずいぶん日が短くなったので、この時間からようやく日が畑に指す時間、つまり、彼らが待ちに待った光合成をする時間なのだ。でも、彼は毎度、西を向いている。

トガり時代を回顧する芸人たち

私の知る限り、世の中には皆と同じ方向を向けない奴がいる。一人だけで行動してしまったり、思いもよらないところにたどり着いてしまったり。それが生まれてこの方そうなっているのか、それとも別方向を目指す自分をかっこいいと思っているのかは分からない。ただ後者の場合は、ときたまにそれを「トガっている」と呼んだりする。

昨今、ベテラン・中堅芸人と呼ばれる芸人さんたちが若手時代を振り返るテレビ番組やyoutubeが増えてきたように思う。私は彼らの話を聞くたびに、どこか自分に対する羞恥を覚えるときが少なくない。つまり、芸人さんたちの「トガった」エピソードの中に、自分をみつけてしまうような気がしてくるのだ。

私と唐辛子の早朝問答

おい、お前。
たまには東を向いた方がええんちゃうか。

話を聞けば、芸人さんたちには都度都度、トガった自分に丸みを出す出会いがあったり、時には伸びた鼻をへし折られる場面があったりするらしい。

聞いてるんか、お前。
伸びた鼻はいつか折れてまうって、あの芸人さんが言うてはったぞ。

唐辛子は、実が生りすぎるとその重みで枝が折れてしまったり、地面についてしまうことが多々ある。もちろん中には人間の手を借りずとも、シャンと枝を天に向かって伸ばし続ける株もあるが、大半はダラリと枝の先を土に向けている。そのため、ダラリとしすぎている株のを見つけたら、枝を紐で支柱に括り付けてやるのだ。そうすると、また上に向かって成長し始める。

お前、助けてもらってるの分かってるんか?
前に一回、枝折れたの覚えてる?

「トガっている」彼に、必要以上に感情移入してしまう自分がいる。きっと私が彼に自分自身を投影しているのだろう。

そんなんやったら、また強風にでも枝を折ってもろたらええねん

本格的な冬が迫ってきた。唐辛子は霜が降りると枯れてしまう。つまり、彼と過ごせる時間もあと少しだ。

今、私は、枯れてしまった彼の枝を折るとき、自身の伸びた鼻も一緒に折ってしまいたいと思っている。そうでなければ、

「お前、トガってるな」

と彼に笑われてしまうような気がしているのだ。

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作物は実直だなと思います。
変な話、枯れるときはちゃんと枯れますしね。

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