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たとえば、シングルマザーは宿に来ない

宿を続けることは格差を再生産すること?

余剰資金と旅行

「お金持ち以外旅行とか観光なんてできないよね」
という問題意識を抱えて、早6年が経とうとしています。それは筆者自身が学部・大学院時代に観光学なる学問領域に身を置いていたときに、感じていた問題意識です。
当時から「観光を通じて地域再生」だとかいう話が盛り上がっていましたし、旅行先では「旅を通じてこんなにも世界が広がったんです!」と熱く語る人とも沢山出会いました。もちろんこれ自体を否定したいわけではありません。観光で再生した地域もあるだろうし、新たな世界に飛び込むきっかけを得た旅行者もいることでしょう。

ただ問題はやはりそれは「お金」ありきだということです。もっといえば、「生活費以外でお金が余っている」という前提がそこにあるということです。やはり旅行や観光は娯楽であって、余剰資金の上に成立している事柄なわけです。

ただこんなことを言っていては研究は進まないので、見て見ぬふりをしてきました。

シングルマザーは宿に来ない

筆者は現在も旅行やら観光やらに関わり続けています。つまり、香川の離島で宿を経営しています。ただ、例えば弊宿にパート勤めのシングルマザーとそのお子様が来たことはありません。

弊宿はご家族連れに多く来てもらっている宿と自負しておりますが、少なくとも親御さんのどちらかは正社員のご家庭ばかりです。ご家庭毎に様々な悩みや事情はあるとは思う一方で、お話を聞く限り例えば「食うに困っている」という感は伝わってきません。この意味で、食うに困っておらず旅行に来ている時点で、弊宿のお客様たちは先のシングルマザーのご家庭比べれば、相対的に「お金持ち」です。

もちろんお客様が来てくれること、そして特にそこにお子様が多いことはとても嬉しく思っていますが、やはり頭の中から抜けないあの感覚があります。

「お金持ち以外旅行とか観光なんてできないよね」

体験格差

と、偉そうに言いながら特に何をするでもなく日々を過ごしていました。しかし、昨年の2022年末あたりからこんな言葉をニュースでよく見るようになります。

「体験格差」
ざっといえば、子ども時代の習い事や旅行などの体験の有無が大きな格差を生み出す。なんとなく筆者も「そりゃそうだろ」と昔から思っていましたが、改めて数値化され、そして広く報道されるとギクリとしました。

つまり、筆者が宿業を続けるということは格差を再生産しているのではないかと思い始めたわけというわけです。

体験格差の是正に向けて

体験と一口に言っても、記事にもあるように
スポーツや音楽を習ったりすることも体験の一つです。
だからこそ、体験格差の是正に向けては何も旅行や観光からだけで切り込んでいく必要はないと筆者は思っています。

それはむしろ筆者自身が旅行や観光は体験格差の権化だと考える節もあるからです。たとえば地域の柔道クラブの月謝が2000円だとした場合、単純に考えて年間費用は2万4000円。それに対して、旅行ではたとえば東京から香川に新幹線を使うだけで往復3万円以上かかります。
そのため一回当たりの拠出額大きいにもかかわらず、体験できる時間は短い。これこそが旅行や観光なのです。だからこそ「修学旅行以外の旅行なんてしたことない」という子どもさんが存在するのです。

こんなに批判しておいてなんですが、やはり宿業者としても、学問的に観光に向き合った人間としても、旅はやはり人生を見つめ直すチャンスだ考えています。新しい景色、食事、人とのふとした出会いがその先の人生を導くカギになるということもあるはずです。

だからこそ、どのような切り口からでも体験格差の是正に取り組めればなと思っています。そしてその結果として、旅行や観光を楽しめる人、特にそんな子どもが少しでも増えればと思うばかりです。

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というわけで抽象的な話ばかりしてきましたが、今少しずつ各方面のご協力もいただきながら準備を始めています。

この記事はそもそもまずは筆者自身がどのような問題意識を持っているのかを知ってもらうために書いたといったところです。

実際取り組みの情報をリリースするのには時間がかかるとは思いますが、またそのときは読んでいただけますと幸いです。

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