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旅する暴力団

あのイカから溢れる香りがカネの匂いでなかったことだけは確かだ。

高知で出会ったお祭りと的屋

先日、高知県でとある港町に立ち寄った。理由は何と言っても地元の市場でカツオのたたきを食べるためである。

とはいったものの、市場の開く時間まではまだ小一時間あるらしく、少し時間を潰さねばならない。というわけで辺りを散歩すると、少し大きな神社を見つけた。そして、今宵はお祭りらしく、数多くの的屋が夜に向けて準備をしていた。立ち寄った商店の女性に聞くと、高知県では比較的大きな秋のお祭りが今晩始まるらしい。

たこ焼き、スーパーボールすくい、ベビーカステラ。今やチーズハットグなんてものも屋台にあるらしい。ここ数年、屋台の出るような縁日とはまさしく無縁に生きてきたので、そんな屋台がどんどんと組み上げられていく様子にどこか胸の高鳴りを覚えた。

旅する暴力団

すると、一つの屋台で試作なのだろうかイカを焼き始めた。もちろん屋台には「イカ焼き」とある。香ばしい匂いに誘われて、その様子を見物していると、イカ焼きの店主が私に話しかけてきた。どうやら彼は20代前半、ヘタするとハタチ前後というところか。明るい目の茶髪を刈り上げた彼の顔には、ピアスの跡と少しのあどけなさが残っていた。

「いい匂いするでしょ」
「ほんまですね。夜も居れたらええんやけど。お兄さんも地元の方ですか?」
「全然違いますよ。私は高知の人間やないんです。今日も山口から来たんです」

的屋って、地元の人間で運営するのではないのか。質問せずにはいられない。

「山口から出張ってことですか?」
「そうなんですよ。夏から秋はお祭りが日本各地であるでしょ?そやから、この前は金沢、おとといは山口、今日は高知。実は僕カタギって感じではないんで、こうやってお祭りとかに出てくるんです」

風のうわさで、お祭りの的屋には暴力団組員通称「ヤクザ」が居ると聞いたことはある。とはいえ、彼らもまた広い意味では地元の人だと思っていた。まさか目の前の暴力団のヤクザさんが日本中を巡っているとは。

旅する暴力団、ここにあり。


ヤクザではなく、ヤクザさん

私はもともと大阪育ちということもあり、ヤクザ、いやヤクザさんにはどこか親しみを持っている。それは吉本新喜劇のせいでもあるし、事実周囲の大人たちから「ほんまもんのヤクザは親切なんやで」と教えられてきたせいもあるだろう。

実際、数度だけだがヤクザさんと遭遇したこともある。小さい頃、銭湯で出会った全身入れ墨だらけのヤクザさんは、洗い場を私に譲ってくれた。また大学生の頃、ラーメン屋に突然入ってきたヤクザさんは怖い顔つきをしていたが、店主からラーメン無料券を大量に貰うと「また食いに来させてや」と言いながら店を出て行った。

実際、ラーメン屋の一件は、本来有料であるラーメンをタダ食いするという意味では実質的には「みかじめ料」ではある。ただ、大量に無料券をもらうということは、あのヤクザさんもきっと私と同じでこのラーメンが好きなのだろうと思えてならず、どこかヤクザさんに可愛さを覚えた。

日本のお祭りを支えているのかしら?

あくまでこれは私が個人的なレベルで聞いたお話であって、お祭りによっては暴力団排除を徹底している場合もあるらしい。
またもちろん暴力団が犯罪の温床になっているのもたしかなので、手放しには彼らを受け入れることはできない。そして、自分から近づくことなどもちろんない。

ただそれでも、ヤクザさんは縁遠いとはいえ、私にとってはなんだかんだ憎めない存在でもある。
だからこそ、彼らが日本中のお祭りを支えているのかと思うと、なんだかほっこりもしてしまうのだ。

あのヤクザさんのイカ焼きはどんな味がしたのだろう
実際には分からないが、あのイカから溢れる香りがカネの匂いでなかったことだけは確かだ。


※この記事の暴力団に関する情報は、あくまで私が個人的に耳にしたお話しです。そのため、あくまで一つのお楽しみとしてご理解いただければ幸いです。

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