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就活ガール#99 2月以前に選考開始する企業は4割以上

コレはある日のこと、講義と講義の合間の時間に、コンピュータールームで休憩をしていた時のことだ。隣には同級生の美春が座っている。90分程度のこの時間をどういう風に過ごすかは大学生にとってはよくある悩みだと思うが、去年までのダラダラ雑談して遊んでいた時と違い、今はコンピュータールームでエントリーシートを書いていることが多くなっていた。

「ねぇ、ちょっとこれ見て。」

そういって美春がグラフを見せてくれた。大手人材会社による調査結果のようだ。この前、日野原さんが見ていたのとは別の会社らしいが、最近はこのような分析結果も出始めているのだろうか。昨年分の就職活動がひと段落し、ある程度結果が明確になってきたころだというのも関係しているだろう。

「なになに、企業がいつから選考を開始するかっていうアンケートか。」

「ええ。回答企業は約1200社で、そのうち300社が従業員数1000人以上。900社くらいは中小企業よ。それから、上場企業は約250社で、残りの950社は非上場。日本の企業の9割以上は中小企業なんていわれてるけど、働いている人の人口ベースでみると3割くらいは大手かその関連企業だから、このアンケートはバランスよい回答者だと思うわ。ちなみに、本社所在地もちゃんと散らばってるわよ。」

「日本全体の縮図みたいになってるわけか。結構参考になりそうだな。」

「うん。それによると、2023年卒業の学生の応募を3月に始める企業は約5割みたい。去年は6割くらいだったから、結構減ってるわね。」

「経団連が決めたルールを守ってる企業って半分しかないんだな。そりゃあルール撤廃になるわけだ。」

「守ってるほうが損だし当然よね。企業としては良い人材を採用できればそれでいいわけだし。」

「ということは、残りの5割は2月以前に開始してるってことか?」

「2月以前が4割、4月以降が1割ね。2月以前に選考を開始してる4割の企業の中には1度しか選考スケジュールを引いてない企業もあるだろうから、そうすると、3月からスタートする人はその時点で結構な割合の企業を受験すらできないってことになるわね。」

「受験すらできないのはキツイよなぁ。できたとしても、早期選考組で枠の大半が埋まったりすることもあるだろうし。」

「基本的には早くから就職活動を始めている学生ほど優秀な傾向があるから、企業としてはできるだけ早く良い学生を囲い込んで、中盤以降の選考では何らかの事情で早期選考に応募しなかったけど優秀な人を拾い上げるって感じでしょうね。」

「留学してたとか、たまたま就活にやる気を出すのが遅かったとかっていう学生も一定割合いるしな。」

「うん。でもやっぱり、早期選考を実施してる以上は、そこで採るのが普通のようだわ。」

「あと、インターンで囲い込むってこともあるよな。」

「あるわね。インターン以外にも、会社説明会とかOB座談会とかいろいろあるわ。そのいずれも選考に関係あると思っていいでしょうね。」

「そりゃあ関係なければわざわざ高いコストを払ってやらないからな。どの程度関係があるかは企業によって違うだろうけど、全く関係がないはずがない。」

「そうね。私もそう思うわ。特に最近はオンライン開催が増えてるから、企業側からも他社動向が見えづらく、採用担当も疑心暗鬼になってるんじゃないかしら。」

「合同説明会とかだと参加企業がすぐにわかるもんなぁ。」

「うん。そして、こういうイベントは全て採用選考ではないから、このデータの3月選考開始が5割、4月以降1割の合計6割って数値は、もっと減るんじゃないかしら。」

「おそらく半分以上の企業は2月以前から始まってるんだろうなぁ。」

たしかに思い返すと、俺が受けたいと思っている企業も、たいていは2月以前に何らかの活動をしていた。内容はインターンや早期選考など様々だけれど、2月になる今の時点で音沙汰無という大手企業はあまりない。早期選考がある会社一覧といったものをネットでみたことがあるけれど、肌感覚的にはむしろ、3月以降まで選考を行わない企業を見つけたら忘れないようにメモしておかないといけないと思うくらいだ。

「それで、もう一つの方のグラフなんだけど、見て。」

そう言って画面をスクロールしてくれた先には、『内定を出し始める時期』というタイトルのグラフが描かれていた。

「なになに、3月が2割、4月が3割か。それで2月以前は15パーセント程度もあるな。5月以降は35パーセントくらい。」

「そうね。当たり前だけど選考を開始しないと内定が出ないから、選考開始時期よりは後ろにずれてるわ。」

「それでも2月までに内定出る会社が15パーセント近くあるんだなぁ。」

「ええ。それに、3月に内定が出る会社だって、選考期間が1か月以内ってことはあまりないだろうから、多くは2月以前に開始してる企業でしょうね。」

「そうだよな。やっぱり早く内定を得るためには、早く動き始める必要があるんだと思う。」

「ちなみに、このサイトには早期に動き始めることについて、別のメリットも書いてたわ。」

そう言って今度はウェブブラウザを開き、以前にも何度か見たサイトを見せてくれた。『就活ガール』というウェブ小説サイトである。

「なになに。3月以降は平均的な学生が一気に就職活動を始めるから、優秀な仲間を見つけるのが難しくなる、か。」

しばらくのあいだ俺が記事を読み続けていると、横から美春が声をかけてきた。

「たしかに以前はグループディスカッションとかに参加すると、皆優秀でビビってたんだけど、最近はそうでもないなって感じの人が徐々に増え始めてる気がするのよね。もちろん私がグループディスカッションに慣れてきたっていう理由もあるとは思うけど、それだけじゃないと思う。」

「言葉にするとちょっと殺伐としてる感じがして嫌な気もするけど、優秀な就活仲間がいた方が俺たちの就活もうまくいくだろうしなぁ。」

 これは実は以前からずっと思っていたことだ。例えば白雪学園のようなFラン大学では、現時点で就職活動を始めている人はほとんどいない。なので、学内で就活仲間を作って情報交換や悩み相談をするということはほぼ不可能だ。美春や美柑と仲良くなれたことが奇跡と言っていいレベルである。

「私もそう思うわね。就活生の中にはレベルの高い人から低い人まで様々いて、レベルが低い人の中にもいい人はいっぱいいるんだろうけど、今の私に重要なのは仲の良い友達ではなく、就活で切磋琢磨できる人だもの。」

「俺もそうだ。仲の良い友達なら美春がいるし。」

「え、うん。そうね。ありがとう。」

俺の言葉に少し照れ臭そうに礼を言って、美春が話を続けた。

「だから、今のうちに説明会とかインターン、選考に参加するメリットってそういうところもあると思うのよね。」

「そうだな。ネットで就活生同士つながることもできるけど、やっぱり一度同じイベントに参加したっていう方が仲良くなりやすい気がする。」

「うん。実際、私も就活を通して他の学校の人とも仲良くなれたわ。別に昔からの大親友みたいになんでも話せる仲っていうわけではないんだけど、お互いに意識しあったり、エントリーシートを見せ合ったり。そういうのも人間関係の一つよね。だからこそ、何も利害関係を考えずに仲良くなれる学生時代の友人は大事にしろって大人は言いがちなんじゃないかしら。」

「結構深い話だな。」

美春の言葉にゆっくりと頷く。

「学生のうちは友達か、そうじゃないかっていう風に二分しがちじゃない? でも仕事をすると、別に仲良しというほどでもないけどお互いにとって有益という人間関係が増えてくると思うのよ。まぁバイト先の同僚とか、たまに代理出席してもらうだけの同級生とか、よく考えれば今でもそんな感じの人間関係もあるかもしれないけど。」

「ああ、俺もそう思う。それに、そういう利害関係のある関係から始まって、自然と親友になったり恋愛関係になったりする事例もあるみたいだしな。」

「そうね。」

 そこまで話したところで、二人揃って席を立つ。そろそろ次の講義の時間だ。今日は、早期選考に参加するメリットを改めて認識することができた。俺はたまたま同じゼミに就活強者の先輩がいたから良かったけれど、そうじゃないFラン生はこのような事実に気付くことすらないまま3月を迎えるのだろう。そういう情報収集能力や運も含めて就活であり、結局、いくら自分を正当化しても欲しい内定を得た人が勝ちなのだ。

 美春が見せてくれた人材企業のレポートにはこれ以外にも多数情報が載っていた。これからも色々なレポートで客観的なデータを集めつつ、精一杯就職活動をしたいと思い、講義に戻るのだった。

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