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2021年に読んだ書籍10選

毎年恒例の年間の書籍10選をまとめてみる。

その前にちょっとだけ小噺を。

本なんて読む価値があるのだろうか。人と話したり、仕事に熱心に打ち込んだり、家族との時間を大切に過ごしたりした方が良いのではないか。

特に今年は創業したばかりだったので、本を読む時間に対して罪悪感すら抱いていた。ページを繰るその瞬間、セールスメールの1本でも打つべきではなかったか、と。

結局、それに関する確信のある答えは未だに持ち合わせていない。何度も考えてみたけれど。そんな状態で読書をしていたから、なかなか集中することができなかった。オンとオフ、気持ちを切り替えるのは難しい。オンで走りまくった1年で、今年ほど「お金がほしいなあ」と思った年はない。つまりは、これまで恵まれ過ぎていたんだろう。

だけどひとつ、言えるのは、本を読んでいなかったら、いまの自分は存在しない。楽に生きていられたかもしれないけれど、葛藤を経て、自分なりの最適解を導こうとする人生は充実している。

安いロジックには乗らない。正義に見える欺瞞や嘘には敏感だ。権力には抗う。批判することを恐れない。その結果、嫌われたって仕方がないと思う。村上春樹さんがエルサレムで語ったように、僕も「卵」の側についていたい。

そう決心はするものの、心が折れそうになることは多々あって。

そんなとき僕を叱咤激励してくれる本は、心強い存在だ。今年も本を読めて良かった。印象に残った10冊を以下に紹介したい。

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平野啓一郎『本心』

近未来、テクノロジーが行き渡った社会で「愛とは何だろう?」という問いを投げ掛ける平野啓一郎の近著。頼れるものが僅かしかない環境で、それでも生き続けなければならない主人公の悲哀は他人事とは思えない。資本主義と労働の間で戸惑う人たちにとって、これほど勇気づけられる小説があっただろうか?

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深澤直人『ふつう』

Webサイト「ふつうごと」を立ち上げる上で、深澤直人さんのプロダクトや著書の数々に影響を受けた。平凡としての「ふつう」ではなく、スタンダードな意味での「ふつう」。問題解決という表面的な言葉を疑ってしまうのは、深澤さんの美意識それ自体を、僕は価値だと思うからだ。

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古賀史健『取材・執筆・推敲〜書く人の教科書〜』

「書く」ことに教科書なんて必要なのだろうか。そう思ってなかなか本書を買う決心がつかなかったのだけど、この本と出会って心から良かったと思えている。「書く」ことは、書く前後の準備や姿勢も大事になる。ドストエフスキーをただ読めば良いわけではない。すべて、書く主体である「自分」という意思が入るのだから。

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鈴木忠平『嫌われた監督〜落合博満は中日をどう変えたのか〜』

ジャーナリストの卵だった著者が、中日ドラゴンズの元監督である落合博満さんを取材する中で「どう感じたか」を書き綴った本。落合さんや中日ドラゴンズのレポートでは、決してない。好感度を重視したショービジネス的な喧騒とは無縁である。ハードボイルドな仕事人によって、仕事とは何か?が問われている。

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温又柔『「国語」から旅立って』

国語とは、なかなか複層的な言葉だなと思う。日本語や英語と違い、特定の言語を表しているわけではない。(例えば僕にとっての国語は日本語だが、バイデンさんにとっての国語は英語である)

そういった観点から、著者にとっての国語は様々だ。国語という枠に、自らのアイデンティティがカチッと嵌まらない。国家によって規定された言語感覚から飛躍することができるか。それが多様性の根本にもなっている気がする。

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ケイト・マーフィ『LISTEN〜知性豊かで創造力がある人になれる〜』

数々の書籍は社会を動かしたし、歴史的なスピーチは人々の心を揺さぶってきた。同じように「聞く」ことが、人生や社会を変えることができるかもしれない。著者はそれが大袈裟ではないと本気で思っているし、かつてないほど「聞く」ことが求められていると主張する。大事なのはテクノロジーでなく、人だということ。

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マイケル・サンデル『実力も運のうち〜能力主義は正義か?〜』

能力が高ければ社会から好遇を得られる。そりゃそうだろうと思った方は、能力主義を盲信しているかもしれない。「あいつは努力しなかったから」「あいつは不摂生な生活をしていたから」という前提のもとでセーフティネットから外れてしまうのであれば、公共的福祉の意味がない。社会はもっと万人に寛容であってほしい。

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斎藤幸平『人新世の「資本論」』

社会主義や共産主義のイメージが強いマルクスについて、脱成長を唱える共同体主義なのだと説く斎藤さん。マルクス思想の解釈の是非を問うのでなく、資本主義という前提をこれからも続けていきますか?と耳の痛い指摘を投げ掛けた一冊だ。著者の熱量の高さに圧倒される。さあ、2022年はどうなるだろうか。

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オルテガ『大衆の反逆』

大衆が大衆として力を発揮するのは好ましいことのように思えるが、世論というあやふやな力に翻弄されるのは少数の善意かもねという話。体裁の良いポピュリズムが台頭したときに、大衆は制御できない荒波になる。そして厄介なのは、僕もあなたも知らず知らずに大衆に加えられてしまうこと。本書で防御策を見出したい。

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ボーヴォワール『老い』

「老い」という誰しも避けられないものに、当たり前のようにネガティブなイメージを持っていた。もしそれが「高齢になったら生きづらい」ことが理由だとしたら、それは環境が十分でないからではないか。その環境のひとりである僕自身も、知らず知らずのうちに生きづらさに加担しているのかもしれない。

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まとめ(紹介した10作品)
・平野啓一郎『本心』
・深澤直人『ふつう』
・古賀史健『取材・執筆・推敲〜書く人の教科書〜』
・鈴木忠平『嫌われた監督〜落合博満は中日をどう変えたのか〜』
・温又柔『「国語」から旅立って』
・ケイト・マーフィ『LISTEN〜知性豊かで創造力がある人になれる〜』
・マイケル・サンデル『実力も運のうち〜能力主義は正義か?〜』
・斎藤幸平『人新世の「資本論」』
・オルテガ『大衆の反逆』
・ボーヴォワール『老い』

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昨年までのエントリは以下をご参照ください。

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お酒を飲みながら、書籍10選のPodcastも収録しました。お時間ある方は聴いてみてください!

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