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深澤直人さんの「ふつう」

プロダクトデザイナー・深澤直人さんの作品を見て、「普通だな」と評価する人は皆無だ。

僕は深澤さんと仕事をしたことはないが、僕がクライアントだったら、深澤さんにものすごくスペシャルなものを作ってくれるのではないか?と期待するだろう。

深澤さんの美意識が、ミリ単位で形状に反映されているプロダクト。そのほとんどが商業的なプロダクト、つまり商品であるにもかかわらず、デザインが好きな人たちは「作品」と呼ぶ。

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だから、深澤直人さんが、2020年7月に『ふつう』という本を出版したときは驚いた。

ふつうの反対は特別。ノーマルに対してスペシャル」と記しているが、深澤さんのプロダクトは間違いなくスペシャルなもので、普通とは対極にあるのでは?と思ったからだ。

「ふつう」とは日常に散らばった点を結んだ線の輪郭のことだ。「ふつうそうだろ」「そんなのふつうじゃない」「それ、ふつうすぎない?」。誰もがきっとそう思っている、そう感じている、そう捉えている、という暗黙に共有する抽象の輪郭が「ふつう」の原理だと思う。私は、その一見曖昧な抽象の輪郭を細くはっきりと見据えたい。それはデザインという抽象の輪郭でもある。
いつも「ちょっといいふつう」をつくりたいと思っている。「ちょっといいふつう」が「ふつう」になるまでには少し時間がかかる。でもそれが「ふつう」になったらまた「ちょっといいふつう」をつくればいい。「ちょっと」とはデザインのことで、「ふつう」は現象である。今起っている現象をちょっとよくしてみるのが私の仕事で、それには「ふつう」という現象の理解が必要である。
(深澤直人『ふつう』P18〜19より引用、太字は私)

早い話、深澤さんが感じる「ふつう」とは、一般人が思っている「普通」とは全く違うということだ。

深澤さんの「ふつう」の概念を知ってから1年経ち、改めて『ふつう』を読み直してみると、僕自身も今、「ふつう」を志向していることが分かる。

例えば、

・スタートアップ的な経営をしたいのでなく、じっくりと商売がしたい
・コツコツとコンテンツを積み上げていくような仕事がしたい(バズる必要はなく、じっくりと時間をかけて重宝されるサービスを作りたい)
・自分なりの「ふつう」な感性を温めるように仕事に臨みたい
・自分と同じような「ふつう」に対して何らかの価値貢献がしたい

といったことだ。

もちろん僕の考える「ふつう」は、深澤さんが考える「ふつう」とは違うだろう。深澤さんの「ふつう」に影響を受けたとて、深澤さんの「ふつう」を真似ることはできないし、目指すことも不可能だ。

だからこそ、僕視点での「ふつう」を探っていきたい。

「これだけあれば幸せだ」と思える白いご飯のような」ふつうを体現できるようになれれば、きっと、ふつうに喜んでもらえるようになるはず。

じっくり、こつこつと。

自分に迷ったり、上手くいかず苦しんだとき、深澤さんのテキストは僕を整えてくれるのだ。

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2021年7月29日現在、在庫が切れているようです。もし都内にお住まいでしたら、渋谷ヒカリエのd47 design travel storeに直接問い合わせることをお薦めします。



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