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2023年元日に、新聞各紙が一面で伝えたこと

2022年、最も僕のnoteで読まれたのがこちら。

ワールドカップ敗退の翌日、新聞7紙のコラムを読み比べしたもの。同じテーマを扱っているにも関わらず、各紙の「色」は異なっていて、非常に興味深かった。

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2023年元日、1年の「はじまり」に、各紙の一面はどんなことを伝えるのか。

それは個別のニュースでなく、時間をかけて仕込んだ「テーマ」のようなものであるはず。だからそれは、各紙が今、最も「課題」として考えているものに違いない。

読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、日本経済新聞、東京新聞、下野新聞(実家でとっているもの)の7紙。

彼らがどんなことを伝えているのか。ざっくりとレビューしてみたい。

読売新聞

一面の見出しは「日韓レーダーを接続」。

テーマは安全保障、2面も含めて「対 北朝鮮」を明確な脅威と見做した上での記事になっている。各紙が総括的な紙面を作っている一方で、一面にはそれなりにニュース性の高い情報を掲げているのが印象的だった(2020年、2021年の一面も確認したが、元日だからといって特別な紙面構成にしないという方針はずっと続いているようだ)。
なおこの記事には、中国やロシア、ウクライナの名前は一切出てこない。

その他、一面に載っていたのは「北、弾道ミサイル3発」「技能実習 派遣期間調査へ」と「年越しにぎわい(浅草寺)」だった。

朝日新聞

一面の見出しは「誰もが孤独の時代 人間性失わないで」。

『戦争は女の顔をしていない』『セカンドハンドの時代』で知られる、ノーベル文学賞を受賞した作家・アレクシエーヴィチさんのインタビューが掲載されている。冒頭で触れられているのはロシアによるウクライナ侵攻であり、ウクライナ人の母を持つ彼女の言葉は非常に重みがあった。
二面に続くインタビューでは安倍晋三元首相の殺害にも触れられ、「戦争や憎しみが、人間を獣にしてしまう」ことへの警鐘を鳴らしている

その他、一面に載っていたのは「皇室 ネット発信強化へ」「朝日賞 4氏に決まる」だった。

毎日新聞

一面の見出しは「日台に軍事連絡ルート」。

読売新聞と同様、安全保障に関する記事。毎日新聞の場合は、「中国の台湾侵攻に備え」が皮切りとなった構成になる。元日から複数回掲載のコラムになっていて、「『平和国家』はどこへ」がコラムタイトルになっている。
一面最後の段落には「岸田文雄政権は安保関連3文書を改定し、『盾』だけでなく、『矛』を持つ方向にかじを切った。『平和国家』はどこへ向かうのか。そこに危うさは無いのか」と記されている。後述する産経新聞の論調とは、距離があるような書き口になっているのが特徴だ。

その他、一面に載っていたのは「卯年生まれ 997万人」「『早く平和になって』ウクライナ避難民 日本で年越し」だった。

産経新聞

一面の見出しは「民主主義守る闘いは続く」。

テーマは安全保障と民主主義。これらを同時に語るのはなかなか難しい。だが産経新聞の姿勢は一面のコラムで明確だ。いわく「岸田政権が決めた国家安全保障戦略などの安保3文書は、反撃能力の保有や5年間の防衛費総額43兆円などを盛り込んだ。安保政策の大きな転換で岸田政権の業績といえる」。
日本や米国、欧州連合などの民主主義勢力と、中国、ロシアに代表される権威主義体制とで対立構造で描きつつ、「いかに民主主義を脅かす勢力から、民主主義の価値を守るか」という論調を貫いているのが特徴だ。

その他、一面に載っていたのは「徴用工 月内にも解決策」「社説『国民を守る日本』へ進もう」だった。

日本経済新聞

一面の見出しは「グローバル化 止まらない」。

米中対立やロシアのウクライナ侵攻について述べた後で、分断の嵐の中でグローバル化が停滞していると懸念している。だが、外とのつながりを求める人たちは大勢おり、イデオロギー対立を超えた「Next World」としてのグローバル化を考えていかなければならないと説いている。
キーワードとして「フェアネス」を挙げている。特定の国のみが利権を得るような仕組みや、効率化を求めすぎて生まれる混乱や飢餓など世界情勢を危うくする諸問題に対して反省を促している。産経新聞と異なるのは、対立構造に留まらず、対立を超えた新しい世界づくりを模索すべきだとしている点である。

その他、一面に載っていたのは「日立、37万人ジョブ型に」「中国景況 低迷続く」だった。

東京新聞

一面の見出しは「話し合いをあきらめない」。

テーマは民主主義。全7回のコラム記事の初回は、学童保育所や就労支援カフェで、ステークホルダー全員の合意形成を大切にするという実践が紹介されている。「政治家の力を借りずに自分たちの手で民主主義を高めていこうという動きも広がっている」ということで、「まちかど」で見つけた民主主義再生の動きについて紹介していくという企画のようだ。
二面では、経済思想家の斉藤幸平さんのインタビューが掲載されている。

その他、一面に載っていたのは「東京、小学生数が減少へ」だった。

下野新聞

一面の見出しは「消えゆくヤマの名残」。

日本初の公害事件の舞台となった栃木県の足尾(2006年に日光市と合併)。現在は1,500人あまりが住み、65歳以上が6割近くに上るなど、人口減少や少子高齢化の象徴のような場所になっているそうだ。
実は今でも有毒な抗排水が出続けており、排水処理を行なっている。それを2011年3月の福島第1原発事故の舞台になったフクシマと重ね、「処理を怠れば(中略)再び甚大な被害を及ぼしかねない。半永久的に管理は続く」「負の遺産と生きていかなければならない」としている。
記事の最後に2022年、政府が原発政策を大きく転換したことに触れられる。実はこの記事のテーマは、エネルギー問題だったという構成になっている。

その他、一面に載っていたのは「20〜30代移住 増加が33%」だった。

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一面で特集を組んでいない読売新聞を除き、6紙では「安全保障」「民主主義」「エネルギー問題」のいずれかが語られていた。

エネルギー問題は、安全保障とも密接に繋がっているし、民主主義は全てのテーマの基幹となる部分で。ということは、6紙が2023年に掲げたものは、多かれ少なかれ共通していると言えるのではないだろうか。

産経新聞の論調は、個人的には頷くことはできないけれど、唯一明快であることは良くも悪くも「特徴」として挙げられる。他の各紙は、かなり注意深く言葉を選び、「民主主義は大事だよね」という当たり障りのない部分に着地を試みようとしているように感じる。(「当たり障りのない」と書いたが、それを読者に実感させることはメディアの使命であり、そのトーン&マナーに、個人的には少なからず同調しています

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ただ、新聞を眺めて分かるのは、この手のテーマが全く成熟に至っていないということ。

それは、政治家が議論を避け続けてきたことも大きいだろう。年末にかけて、防衛費に関する財源をどうするのかという議論が活発になってきた。「5年間の防衛費総額43兆円」という数値ありきの結論には目眩を覚えるが、きたる今春の統一地方選挙が何らかの「揺さぶり」につながるのかは見どころである。

政治家のみに責任を押し付けるのは、あまりに無責任で。安全保障やエネルギー問題について、「平和ボケ」なんて揶揄されることもあるけれど、良識ある人たちが関心を寄せなければならないことには間違いなくて。

経済活動の文脈においては、ついサステナブルやSDGsといったワードが先行してしまうけれど(それはもちろん重要なテーマだけれど)、僕らの生活や経済活動が「前提」としている部分にもう少し目を向けて、時には疑いを持ちつつ、オルタナティブな手段も模索する時期に来ているのではないだろうか。

今回の7紙には、気候変動や少子高齢化、コロナ禍といった話題はなかった。それよりも、世界が不安定になっている喫緊の課題に対する論調が大半を占めていた。

そういった背景は、頭では理解しているつもりだった。だけど実際に読み比べをして、「ああ、本当にそうなんだなあ」ということを実感できた。

年始、色々なことに思いを馳せる時期だ。ほんの少しで良いから、外の世界にも目を向けると、「個人」の在り方を考えるヒントになっていくのではないだろうか。

ということで、今年もよろしくお願いいたします。

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