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自律を生み出す目標管理の基本

人材開発トレーナーの堀井です。私は企業向け研修の講師であり、研修会社の代表をしています。
夏休みの重要なイベントの一つは、計画的に宿題を行うことでしょう。受験生の方は天王山とも表現されるように、自ら目標を立てて時間をマネジメントすることが求められます。

さて、試練に直面するお子さんも出てくるでしょう。(私は毎年のように以下の試練に直面しました)
永遠に続くかと思った蝉の声。しかし、以下の叫びは突然やってきます。


「こんなはずじゃなかったのに」


この叫びを分解すると、以下の図式です。

1.タスク(宿題)に対して工数(残日数)が実現不可能なレベルに達する

2.危機意識をあらわにし「今日から変わる」と自己内経営判断を下す

3.焦ってがむしゃらに取り組んでみるが、長かったコンフォートな時間のせいでスキルが足りず、成果が出ない

4.自己効力感が下がり「やっても無駄」と思い始める

5.責任の所在を、宿題を出した教師、声をかけない親、面白くてハマってしまった漫画本などに追求し始める

6.責任を追求した結果、自分のマネジメント不足であることに行き着く

7.夏休み開始時点の自分に言って聞かせたいという「たられば論」が脳内を駆け巡る

8.「こんなはずじゃなかったのに」と叫ぶ

アンドア株式会社
組織開発の経験を転用した、夏休みの低エンゲージメント症例

そこで本コラムでは、企業研修で教えている目標管理の基本を学び直してみましょう。学生も社会人も目標管理によってイキイキと習慣を送れるよう、奥が深いのに誤解されている目標管理の世界を楽しみましょう。

その前に、弊社の7月のニュースからどうぞ。


人材開発のアンドア株式会社7月のニュース

きっかけ砂時計対話コースリニューアル

コーチング理論に基づき、実践的な1on1実技を学ぶことができるコースが新装リニューアルしました。ご好評いただいている「対話の砂時計モデル」について、要素ごとにクイズやグループ討議で学べるようになりました。導入いただいた企業の受講者からは、

・『きっかけ』のステップがわかりやすかった。さらにクイズ形式で学ぶことができて面白かった
・普段自分が行なっていた1on1は、なんとなく質問を投げかけているだけだと気づいた

などのお声をいただいております。

きっかけ砂時計モデル©︎アンドア株式会社

OJTの4ステップコースリニューアル

Udemyで配信中のオンデマンドコースが、今年の秋に新装リニューアルします。1コースにおけるコマ数は10分×8コマとなります。従来の1コマ12〜18分よりもコンパクトになり、集中しやすい構成になりました。
コースラインナップはOJTの他に、当社のフラッグシップである「きっかけ砂時計対話」など5コースを予定しています。集合研修以外の選択肢を増やし、学び直しのお役に立てられるよう進化していきます。

OJTの基本4ステップ©︎アンドア株式会社

特集:やさしい目標管理

目標管理はなぜ嫌われる?

結論から申し上げると、【評価のための目標】×【再現性を言葉にするトレーニング不足】の二要素が、目標管理が嫌われる原因といえます。

まず【評価のための目標】についてです。詳しくは私の師匠であり、日本の目標管理の草分け的存在である五十嵐英憲先生の著書や講演に譲りますが、先生は、

目標管理とは内発的動機をもたらし、「セルフコントロール」することが本来の目的であるのに、残念ながら日本の企業では「文句の言われない評価」のための目標管理になってしまった。

出典 五十嵐講師とのMZ(真面目な雑談)

と語っておられます。
その他、日本の人事部など、いくつかの調査では、

・従業員の仕事へのモチベーションを引き出せていない
・その場しのぎの目標設定がされている
・自部門の目標に終始し、部署間の連携や目標の共有がされていない

といった目標管理の問題を指摘しています。

次に【再現性を言葉にするトレーニングの不足】です。
私自身の持論ではありますが、例えば営業成績が未達だった場合、スポーツで試合に負けた場合、どのように振り返りを行なって目標設定に活かすのか、成功体験を体系的に学ぶ機会は多くないと思います。

多くの場合

・今までの全てが間違っていた
・とにかく次は頑張ろう

などと、”なんとなく”振り返ることが多いでしょう。
私の夢を絡めてお伝えすると、学校の部活動などでリーダーシップ教育は必要です。一方で、採用面接などでリーダー経験のある学生に質問をすると、試合敗戦後の目標設定を顧問の先生が引き受けてしまったり、そもそも部活の方針自体を自分たちで設定しない、【形だけリーダーシップ】が多くみられます。
部活動において目標設定と再現性ある振り返りを行い、成功体験を積み重ねることは、日本企業のリーダーシップ開発において欠かせない投資だと考えています。もし興味ある方いましたら相談ベースでもお声掛けください。

一貫した目標を作る

では上記の2つを乗り越える、目標管理とはなんでしょう?
誰でもやる気の出る目標管理を実践したことがあるはずです。
以下の図で例えてみましょう。

©︎アンドア株式会社

「疲れたな」

「たまには思いっきり疲れを癒して、次の仕事に備えたいな」

「よし、次の休暇は旅行に出かけよう」

そんな風に思ったとしましょう。
そこでいきなり旅館のアメニティの議論にはなりませんよね。

まずは頭の中であることが掲げられるはずです。
それは、理念です。

1.理念:モチベーションの源泉

人によっては瞬時に決まるかもしれません。または、人によっては宿泊先をいくつか眺めた後で自問自答するかもしれません。

【なんのための旅行か】を決めます。それを目標設定では理念(職場理念や、個人理念など)と言います。
上記の旅行の例では『心からくつろいで、日常のストレスを解消する(したい)』というのが、旅行の理念になります。
その理念には正解も不正解もありません。また、理念自体の達成度や測定指標を論じることはナンセンスです。理念の実現のために、戦略、目標が存在します。したがって理念は測定不可能な抽象概念で構いません。その代わり、心の底から納得しているかが重要なのです。

2.戦略:効力感「できるぞ!」の源泉

理念が固まりました。次に戦略を考えます。
そもそも、『ストレスを解消する』方法はいくらでもあります。そこで、選択肢を絞る必要があります。上記の例の場合は「温泉」を選択し、それ以外のキャンプ、プール、都会などといった選択は略されました。

戦略を立てる意味は、「できるぞ」という効力感をまします。理念を掲げただけでは「本当にリラックスできるのか?」と疑問が立ち込めますが、「温泉で」と具体化されると、その実現性が増します。つまり、できる予感が高まり、モチベーションに寄与するのです。

戦略とはそもそも戦いを略すと表します。つまり、やらないことを決めることです。一方で戦略を立てる際にあれも、これもと、やるべきことを増やしてしまう例が散見されます。もし、温泉も、海も、キャンプも、スキーもと、やることを増やしてしまうと、理念である「心からくつろいで」に反するでしょう。

3.MBO:よく見る”目標”

アンドア株式会社

MBOとは、management by objectivesの略です。日本語に訳すと「目標でなんとかする」です。そもそも、マネジメントの本質は「なんとかする」です。それを「管理監督する」と誤訳してしまったのが関の山。

もしマネジメントは管理監督だ!と信じる方に質問です。
あなたは1時間に1回上司から管理を目的とした電話をもらいたいですか?
あるいは、困った時に1時間に1回”なんとかする”ための助言をもらいたいですか?
研修では圧倒的に後者に手が上がります。ということは、マネジメントの本質は「なんとかする」なのです。

そして、目標(MBO)では”なんとかなった”成果や状態を設定します。それを多くの場合は【目標】と呼びます。

上記の旅行の例では「3泊4日で草津温泉に行く」というのが旅の目標になります。これが決まってから、日程、予算、宿ぎめ、移動手段、付帯項目などの設定が始まるのです。

4.OKR:結局何をどうするの?

3泊4日旅館で過ごすにも、終日リモートワークで仕事をしてしまっては理念に反します。つまり、3泊4日の中で「何を以て”日頃のストレスを解消する”と言えるのか」をこだわる必要があります。

ここから測定可能な定量目標が重要になります。上記の旅行の例では温泉に入るタイミングや時間、散歩をする量などが盛り込まれていました。こうした温泉や散歩は、理念の実現に向けたキーリザルトと言い、簡単にいうと“絶対に外せない体験”とも言えるでしょう。

5.KPI:これにこだわる、たった一つの信号

最後はKPIですが、諸説あります。私が元いたリクルートでは、KPIは1つであるべきという考え方でした。まるで自動車運転の信号機のように、それだけを見れば走るべきか止まるべきかがわかるような指標です。

上記の旅行の例で例えると「8時間の深い睡眠」です。理念である「リラックス」や、OKRにある「温泉に入る」も、結局何を以て順調と判断するのかを決めます。旅行のケースでは睡眠によって測ると決めました。つまり、温泉や散歩などの一連のOKRによってぐっすり眠れた場合は理念の実現に向かっていると判断し、その活動を続けます。一方でぐっすり眠れていない場合は、湯当たりや、散歩やで気になることがあったり、仕事のことを考えてしまっているかもしれません。そうした理念に向かっていないという判断を、「8時間の深い睡眠」をバロメータに見るわけです。したがって、8時間の深い睡眠を取るために、現場でOKRを再設定したり、改善活動を重ねていきます。これは企業における職場の振り返りと微修正に近い概念です。

企業人も、子どもも、モチベーションに悩むもの

さて、ここまで目標管理の概念を一通り見てきました。
旅行の例で例えると、誰もが一度は楽しい実りある旅行を体験したことがあるはずで、自ずと理念からKPIまで(意識せずとも)一貫していたのではないでしょうか。
そこには【自分で決める】楽しさがあります。本来人は、そうした自己決定に高い愛着を持つ傾向があります。
一方で、仕事が複雑多岐に渡ると、自分で決める領域が狭くなったり、誰かに決めてもらうことに慣れてしまうものです。そして気づくとhave to(〜しなくてはいけない)という言葉で頭の中が埋め尽くされてしまいます。

大人も子どもも、モチベーションの仕組みは同じです。目標管理をうまく使って、心からしたいこと:want toを叶える成功体験を積み上げましょう。

冬来りなば、春遠からじ

この酷暑の中で次の春の準備をしている桜のように、
目標管理で素敵な花を咲かせられますように


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