『自省録』は私たちの人生の錨となってくれる一冊|齋藤孝『図解 自省録』より
いまの時代は、毎日の生活を送るにも、ストレスが増えています。気候変動の影響も大きくなり、各地で戦争が起き、また生成AIも出てくるなど、世の中もどんどん変化していく。「どこか生きにくい、自分の心が保ちにくい」と感じている方も多いのではと思います。
そうしたとき、マルクス・アウレリウス・アントニヌス(以下マルクスと略)の『自省録』は、ちょうど船の「錨」にあたるものとなります。激しい風が吹いたり波が荒れたりしても、錨を下していれば、船は漂わずに一定の位置に停泊できます。現代の私たちにとって、『自省録』とは、人生の錨となる本なのです。
そのわけは、ふたつあります。
ひとつは、『自省録』に記されている考え方が、「常に自分の内面と対話して、自分自身をしっかり保つ」という思想で貫かれている点です。そして「外部にわずらわされずに自分を保ち、理性の力を信じよう」というメッセージが、各所に込められています。
こうした信条を、マルクスは繰り返し説いています。私たちはそれを何度も読んでいるうちに、心持ちが次第にしっかりと、強くなってくる。「自分の中に、理性という存在があるのだ」と、感じることができるようになります。そこが、素晴らしいところです。
ふたつめは、マルクスと私たちの共通点です。
古代ローマ帝国の五賢帝の最後、マルクス・アウレリウスが生きた時代は、周囲の民族が国境を越えて侵入しはじめ、それを防ぐため戦争が絶えませんでした。
ほんとうは哲学者になりたかったマルクスは、戦乱や政務など、現実の厳しい環境の中、自分の理想と現実のあいだで、引き裂かれる日々を送っていたのです。
厳しい日々にあってもマルクスは、自分の信じる哲学に忠実な生き方をしたいと願っていました。そうした願いは『自省録』の中にも、しばしば読み取ることができます。
実は、マルクスの置かれたこうした状態は、いまの私たちにも、共通するものがあるのではないでしょうか。
ほんとうにやりたいことがある。でも、いま目の前にある仕事、課されている役目を果たしていかなくてはならない。騒然とした世の中、いろいろと思いどおりに行かない人生の中で、どのように自分を保ったらよいのか、どのようにして人生を意味あるものとするか。
こうした切実な思いに、『自省録』はいろいろなかたちで、応えてくれると思います。
マルクスは、ストア哲学*を、生きるためのよりどころとしていました。そして、ただ考えるだけでなく、その考え方を実際の生活に活かしつつ、実践的に哲学を生きた人です。ですから、『自省録』はストア哲学の、よき実践例ともなっているのです。
さらにストア哲学だけでなく、そこにはマルクス自身の人生観も込められています。「人生ははかない。一瞬である」といった、自身の人生経験からくる感慨が、この『自省録』独特の、魂に訴えてくる表現となって結実しています。
また、考え方の筋道だけでなく、ちょっとした表現や言葉遣いにも、マルクスの息遣いが感じられるような、温かさや魅力があります。彼が自分に向かって語りかけた言葉ですから、私たちはそれを自分たちに語りかけられた言葉として、素直に読むことができるのです。
このように哲学的な思考を、自分自身の体験とすり合わせて深め、自己を形作っていった人物、それがマルクス・アウレリウス・アントニヌスであり、そのつぶやきが、『自省録』なのです。
この本では、数多いマルクスの言葉の中から、日々の生活や人生を考えさせる、印象的な箇所をセレクトしてみました。元の文章では、複雑でわかりにくい表現もありますが、マルクスの考えたこと、いいたいことを、なるべくシンプルなかたちで取り上げて、現代の私たちに届く言葉、メッセージとして再構成したのが、この本です。
各項目を読み進めていくと、「あ、これは前の項目と重なるな」と思われることもあると思います。
マルクス・アウレリウス・アントニヌスの思考は、すべてが有機的につながっています。しっかりとした幹が思考にあります。
この「思考の一貫性」を、読み進めながら、身に落としこんでいってもらえれば、日々のふとした瞬間に、『自省録』の思考が助けになってくれると私は信じています。
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