忘れたくても思い出せない

忘れて欲しかった言葉も、私が覚えていられなくなった
もう、忘れたくても思い出せない過去になってしまった
自分の過去に赤面したくなる、忘れられない泥みたいな過去が誰にでもあるのだろうか。これは、思い出したくもないのに、忘れることができないこびりついた記憶たち。
確かにあった日々を否定するわけではないけれど、かすり傷程度でずっと騒いでいた私は、確かにあの時、病気であった。
恋なんて、熱が出ていないとできない。ずっと高熱が出ているようなものである。
でも、常温になってしまったら終わりだなんて馬鹿げていると思う。常温になって初めて、芽吹く植物もある。高温の季節にしっかりと栄養を体に蓄えて、常温の季節に熱を放出する。
でも、あれが高熱だったか、平熱だったか、なんて、過ぎてみないと全部わからないのだ。見返りを求めているのだと言われても、少なからず人間はみんな見返りを求めて生きてしまうものだと思うし。
結局誰も、何も間違えていないのは、明確であって。答えも正解もない世の中で、勝手に地球で呼吸しているだけなのだから。そもそも意味とか考え始めるから、わからなくなる。本来の人間に、そんなことを考える余裕や隙間が、生活にあってはいけないのだ。

もう、書きたくても書けない。
思い出したくても、思い出せない。
本当にせつないのは、忘れていくことよりも、忘れたことにも気が付かずに風化していくことだ、とよく言ったものだけど、大事に引き出しにしまっておいたはずの記憶がどこにも見つからず、たまの感傷にも浸らせてくれないのは、人間は本当に残酷だな、と、久しぶりにポツリと思ったりした。

あれほど忘れたかったあなたも
今ではもう、忘れたくても思い出せない
声も匂いも仕草も癖も、本当に全部忘れてしまった
覚えていることは、背格好と、寝息がとても静かだったこと。
これだけでも覚えていたら、感傷に浸るのは十分すぎる材料なのだろうかしら。

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