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非日常的なコーヒーの楽しみ方

朝起きて、ふと思い立ってある町に行くことにした。

私の住む町から電車で1時間半とちょっと。

県内といえどもかなりの田舎町で、用事がなければ立ち寄らない駅。

もちろん用事もなければ、尋ねる知り合いもいない。

でも私は、時々このような衝動にかられる。
「誰も私のことを知らず、そして私もその町やそこに住む人々のことを全く知らないところに行きたい」と。


この街に行こうと思い立ったのは、何か本を読んだわけでもグーグルマップを見ていたわけでもない。寝起きの際にふと思いついただけだ。

県内には、私が未開拓の地がたくさんある。


とりあえず支度をして出かけた。

どんな町にも喫茶店の一つくらいはあるだろうという期待を持って、無計画に電車に乗る。

電車に揺られている1時間半の間に、行ってみたい喫茶店を探す。

ランチがおいしそうなお店から、コーヒー、デザートがよさそうなお店、それから雰囲気がよさそうなお店まで。

どこを選ぶかはほぼ直観だ。

営業時間や空腹になりそうな時間を考えて、どの順番に行くか計画を立てる。

あくまでもおおまかに。

小さな町だと、気になるお店は大抵、1日で網羅できる。

そんなことを考えているうちに目的地に到着した。


駅前からまっすぐに続く商店街は、見たこともないほどのシャッター街だった。

定休日ではなく9割くらいが廃業していて、人通りは本当に少ない。

目的地の喫茶店は、果たして開いているのだろうかと不安になるほどだ。

「だったら調べもせずにふらりとこの町に来なければいい」と言われそうだが、私が住む町とのギャップが好きなのか、非日常感を味わえる新鮮さが好きなのか、無人島を冒険しているような気持になるのだ。

町を散策しながら目的の喫茶店に到着。

営業していてよかった。ほっとして入店する。

クラッシックが流れる落ち着いた店内と優しそうなマスター。

どこにでもある喫茶店のようであり、一歩店内へ入ると非日常というギャップに脳が刺激される。

注文したのはプリンアラモードとコーヒー。

ご高齢のマスターがひとつひとつ丁寧に作っていく。

ひとつひとつフルーツを切って、すべて材料がそろったら組み立てていく。

まるでレゴブロックのお城を組み立てている様子を見ているような気になり、童心に帰る。

あっという間に20分が経過していた。ようやく完成。

目の前に出されたのは、とてもレトロなプリンアラモードだった。

手作りの昔懐かしいプリンの横にバニラのアイスクリーム。
その周りに、手で泡立てられたたっぷりの生クリームとフレッシュなフルーツがたっぷりと乗っている。

そのレトロなプリンアラモードを見ていると、なんだかタイムスリップしたような不思議な感覚になる。

1口食べると、これまた懐かしい味わい。

むかーし、おじいちゃんと喫茶店で食べたような、ないような。

そんな、まあるい味わい。

なんだか子供時代に戻ったような気持ち。

プリンアラモードを食べ終わると、これまた丁寧に丁寧にたてられたコーヒーが出てきた。

一緒に出てきたのは、きらきらしたお砂糖としっかり泡立てられた生クリーム。

氷水が貼ってある大きな金魚鉢のようなガラスの容器と、その上に生クリームが乗った、まあるいガラスのボウル。

プリンやフルーツを邪魔しない、優しい食後のお茶のようなコーヒーだった。


ちょっとレトロな映画の世界に、自分が入り込んでしまったような気持ちになる。

喫茶店という日常の空間での、非日常。

自宅から1時間半の、非日常。

私は、自分のトゲトゲした部分をすべて洗い流したような気持ちでこの店を後にした。

#私のコーヒー時間



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