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すべてはこの夜に

風が気持ち良い夜だった。

わたしには、もう少し知ってみたいと思う先輩がいる。
出会った時から、似たような空気を感じていた人。

締め作業を終えて、2人で外に出る。
あまりの心地よさに
''散歩したい〜!''と思わず声が漏れた。

先輩が
''散歩か〜あっちの川の方とか良さそうだよね''と少しだけ興味を示してくれたのを逃さなかったわたしは
''散歩して帰りません?''と誘った。

コンビニでお酒を1缶ずつ買って(買ってもらって)、川に向かう。

梅も紫蘇も好きなわたしにぴったりのお酒!

夜の川は真っ暗で、でも少しだけ明るくて、不思議な空間だった。

風に揺られながら、どちらからともなく会話をする。

お互い恋人との関係を拗らせているという共通点があるので
どんな価値観を大事にしているか、という話が盛り上がる。

''合わないことを、擦り合わせようとするかどうかが大事だよね''
''交友関係の度合いが同じくらいじゃないと難しいよね''

あ〜ほんとにそれ!
共感できることが多くて、お酒が進む。

結婚願望はあるのか?
子どもは欲しい?

普段なら聞けないような話を聞くことができた。

そして気がついたらなぜか、
''ペットを飼うならなに?''
そんな話をしていた。

いい歳をした大人2人が、こんな話で盛り上がれるのだから平和だ。

そしてなにより、どんなボールを投げても
先輩なら投げ返してくれる
そんな安心感が幸せだった。

わたしも、先輩のボールをこぼさない自信があるしね。


先輩は、自分のことを''暗い''と言うけれど
こんなにもわたしを楽しませてくれるから
そんなことないのにな〜と思う。

もしくは、わたしたちの''暗さ''が程よいのかもしれない。


1時間が経ち、お互い缶が空になっていたので帰ることに。

''あ〜楽しかった!''

満足気なわたしを横目に、先輩は落ち着いた様子。

''楽しかったですよね?自分の感情はもっとストレートに声にした方がいいですよ!''

''ストレートに言えるのすごいよね。俺はすかしちゃうな〜(笑)
でも本当に楽しかったよ。てか、楽しくなかったらここまで来てないし''

''オードリーですか?''

こんなくだらないやりとりで笑えるくらいに、わたしたちはほろ酔いだった。

大人は感情をコントロールできてしまうから、つまらないよ。

楽しかった!嬉しい!
そういった感情はもっと声に出していたいよね。

声に出せば、ハッピーは何倍にもなる。
わたしはそう信じたい。

''今度はもう少しお酒を買って来たいね''

先輩も楽しい時間を過ごしてくれていたようで、わたしはまた満足した。

なんだかかわいい…!

こういう、不思議なものやかわいいものを見ると
''え!かわいい!!''と
感情を出さずにはいられないわたし。

先輩はそんなわたしをみながら
''平和だね(笑)その感覚をずっと大事にしてほしいよ''
と笑う。


触れることのない距離感をずっと保っているようなわたしたちだったけれど
その距離感が心地いい。

こんな夜が、毎日続けばいいと思った。
でも、これはたまに訪れるから幸せなのだということもわかる。
大人だからね。

帰りは逆方向なので、改札を入ったところで別れる。

''ありがとうね、また明日''

帰り際に''ありがとう''と言ってもらえるの、嬉しいな〜と気づかされた。

一緒に過ごした時間をまるっと愛してもらえたような安心感を得られるね。


こんなにも楽しい時間を過ごしてしまったのだから、わたしはこの気持ちを真摯に受け止めたい。

''この夜はこの夜''として、恋人との関係を続けることは不誠実だと思う。

今のわたしには、''この夜''が全てだ。

わたしが抱くこの感情が。

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