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2023年の自選短歌30首
ふるさとの匂いに声が溢れそう尾びれを脚に換えた夜から
日に焼けたコバルト文庫の背表紙に遠くなりゆく小五のこころ
クッキーの缶をあつめてどの蓋もナルニア国へと通じる扉
どこまでも夢でいいのにママの手でヴィックスヴェポラップ厚く塗られて
陽だまりに油粘土を置いている別のいのちが生まれてもいい
重力は光も曲げると説くきみの声が揺らした赤い風鈴
だめだった今日の体を湯に浸しふやけた指がすこしおいしい
2022年の自選短歌30首
このごろは言葉も横に流れゆき吹雪のように頬を冷やした
自転車で椿を踏めば痛いって思う ニュースに今日の死者数
ただ花を愛でるばかりのひとと居る耳のうぶげの見える近さで*
バスの来るはずのベンチで目を閉じて遠い車体の軋みを聞いた
ストッキングつまんでできた空隙はわたしの肌の続きだろうか
火事を見た面持ちのままコンビニへ入れば命だったものばかり
夕暮れにごぼうを切った手のにおい生きてるぽくてくり返し
#SideM短歌 315プロ49人詠んでみよう!
ただ上を目指して駆けた 気がつけば並んで走る顔が増えてた
(天ヶ瀬冬馬)
ワイパーの縁をぬぐえばこの星の塵こまやかに露を伴う
(伊集院北斗)
ひるひなか床とシューズの鳴る音が夜空まで跳ぶ唯一の道
(御手洗翔太)
一番星 いちばん先に夜を飾りうつむく人の顔を上げたい
(天道輝)
ホールへと満たされていく音の波 減衰のない人であれたら
(桜庭薫)
この日々も助走とおもう 街灯が雨の歩道を白
#みらいプラザを読むー未来2022.6月号
0.そもそも『未来』って何、『みらいプラザ』って何? 「未来」は「未来短歌会」という短歌結社の、月に一回発行される結社誌です。結社といっても世界征服を企んでいたりはしません。短歌をやりたい人が集まった同人グループのようなもので、結社ごとにカラーはありますが、歌会をやったり結社誌を作ったりという基本的なことは共通していると思います。「未来短歌会」はそんな短歌結社の中の一つで、たぶんそこそこ大きいほう
もっとみる2021年の自選短歌30首
香水の棄てかた知らず歴代のわたしが並ぶ 古びて並ぶ
フランク・ロイド・ライトの椅子に浅く掛け天に脳を吊られるごとく**
敗戦は戦わぬものに訪れずスノードームの内の静けさ**
ひと冬で死なせた鳥の小さくて鋭い爪で怪我したかった**
似た意見だらけの世界を約分し1だけになる とてもさみしい
プディングのゆれる周期で覚悟などふらつくものと知っていたなら
治外法権のこころをスプリングコートの内にはためかせ
好きな歌に好きを言いたい 21/09/30
ギロチンがギロチンの子を産む夢のなかでわたしは助産婦だった
大森静佳『ムッシュ・ド・パリ』
短歌研究2021.8月号 水原紫苑責任編集「女性が作る短歌研究」より
ネット上の炎上を見ていてると時に不安に襲われる。今まさに大バッシングを受けている人と、バッシングしている人と、それを「またか」と思い静観している自分と、それぞれの間に大きな違いはあるのだろうか、いや、ほとんど違わないのではない
2020年の自選短歌30首
ポケットに入れっぱなしの蝶々がインディゴに染む十六の春
いっぱいの水を貼り付けバスはゆくけやき並木に雨のそぼ降る
高いって遠いことだよ月行きのエレベーターから望む地球は
買ってないくじの抽選見るように恋を失う鈴掛の径
水風船投げれば割れてすつぱりと女ではなく人になりたし
六月のままの暦をひとつずつ千切れば風は流れはじめる *1
鼠ほど強くなれたら 階段で立てた中指ずっとつめたい
地下鉄の窓はあけ
第66回 角川短歌賞受賞作のこと
だいぶ今更ですが、ツイートするには長く、noteにするには短い、2020年の角川短歌賞のごく個人的な感想メモ&好きな一首です。
まずあひるさん(田中翠香さん)の「光射す海」。
こういう、明確かつ特殊なテーマを先に掲げて50首詠むというやり方を自分はこの先も採らないだろうなと思うので、別ジャンルの作品を読んだような高揚感がありました。
彼が戦場カメラマンではないこと、虚構も詠める人であることを知っ
好きな歌に好きを言いたい【番外編:あみもの第三十一号より】 2020/08/06
御殿山みなみさんが発行されている短歌連作サークル誌「あみもの」、こちらは固定メンバーなし、提出義務なし、誰でも三~十五首の短歌連作を投稿できる月一回のサークル誌です。
今回は最新号「あみもの 第三十一号」から、気になった歌・連作をピックアップしてみたいと思います。Twitterで流したものの再掲なので、制限された文字数に納めるよう書いており、それゆえ言いっぱなしな感じになっていますがご容赦く
獣の声で歌え[短歌連作]
鴻池朋子 ちゅうがえり/アーティゾン美術館 2020.7.3
閉じられた本のノドから這い出せばページは白い、世界が広い
背伸びして獣の皮を嗅ぐ人よマスクは汚れたものを遮る
ふたたび生まれる 産道をすべり下りかつて俯瞰したまるい大地へ
まれびとの寄りつく浜でどこまでもつながる浜で歌う ひとりだ
事実かは問わずに聴くよ ものがたる人と物語は分けられない
美術館の休憩スペースから見下ろせば
好きな歌に好きを言いたい 2020/08/01
ホッチキスで止めた傷口まもりつつ今年の夏の忙しいこと
東直子『青卵』
関東地方の長い梅雨がきょう、ようやく明けた。朝、寝そべったまま、窓から見える空が青いというのは何てうれしいことだろう。そしてこの歌がふわっと頭に浮かんだ。歌が現実に寄り添ってくれることってあるんだとまたうれしくなった。
自分で短歌を詠み始める前から大好きな歌で、この歌を引用してショートショートを書いたこともある。けれど