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BOØWY 〜80年・90年代日本音楽史「拾遺」Vol.2〜80年代末に失われた伝説(1)BOØWY

90年代の日本の音楽シーンは大きな喪失からのスタートでした。90年代を迎えようとする時、80年代に名を馳せた偉大なる伝説が3つ終焉を迎えました。

今回はまず一つ目の伝説をご紹介します。

ロックバンドのテンプレート


俗にロックバンドというと、どう言うイメージがあるでしょうか。ボーカル、ギター、ドラム、ベースが基本系で、これにキーボードが加わったり、ギターが二人いたり、、というのが典型的な構成という認識ではないでしょうか。

ボーカルは目立っていて、ベースやドラムは割と地味な存在。ギターは作曲の要だったりするような。。

ディープパープルもギターのリッチー・ブラックモアが主導し、個性的なボーカルがこのバンドの世界を表現していました。

この典型的なパターンを日本においてテンプレートのようにしたのがBOØWYだったといえるのではないでしょうか。

ボーカルは歌がうまくてかっこいい。ベースはいぶし銀の活躍を見せるけど寡黙さを醸し出し。。ギターは作曲の要でありテクニックもあり個性を全面に。ドラムは目立たないが、そこにいるのが必然のように存在している。

こんなテンプレート。

意識せずにこう言う構成になっていたというのが、BOØWYと言うバンドでした。

パンキッシュな匂い

70年代後半はパンクに始まるニューウェーブが世の中を席捲していた時期。パンクの面々は単調なリズム、単調なメロディに怒りを乗せて吐き出していました。わずか数年で萎んでいくパンクムーブメントは70年代後半にロックを指向している若者には避けて通れない道だったのでしょう。

ちょっと脇にそれますが、このあたりの歴史を簡単にまとめておきます。

1️⃣パンク、ニューウェーブが米国に飛び火。米国でビートルズ以来の第2次ブリティッシュインベイジョンというムーブメントに。これが、廃れていたモータウンを再着火し、他方ではマドンナなどの出現の下地になり、最終的にはAORというジャンルにまで到達しました。

これが大衆化したハードロックと合わさって大きな80年代米国音楽になっていきます。

2️⃣英国で、このニューウェーブの流れを受けたのがU2やのちにニューオーダーになるJOY DIVISIONでした。一部は土着のバラッドからのフォーク・トラッドを受けついで、独自の発展を遂げました。生き残ったのは一部でしたが、この遺伝子が60年代の原型と結びついて、90年代のUKロック、、ブリットポップとなっていきます。

BOØWYもまた、その短いバンド活動の中でこの流れの影響を受けていきました。

✴︎メタルの流れもありましたが、BOØWYはメタルではなくパンク、ニューウェーブの系譜にあります。メタルの系譜にあるのはXジャパンですね。

モラル

まずはデビュー作の「モラル」。


このアルバム、後追いで聞いた人がほとんどと思います(僕もそうです)。ある程度、彼らを知った上でこのアルバムを最初に聴いたとしたら、あまりの違いに驚いたのでは無いでしょうか。人気の楽曲Image DownやNo.New York が収録されているにも関わらず、全体的にとてもチープですよね。デビュー作というのを差し引いても、、。


たとえば、BOØWYの4巻組ライブビデオ・Case of BOØWYで聞くことのできる、Moral やImage Downとは全く違う。

ただ、このファーストアルバムでわかるのは、若さゆえの社会や政治への怒りが詰め込まれていて抱えきれないエネルギーの発露だったという点。

このアルバムのいくつかの甘い部分を払拭して、このパンキッシュな系統にニューウェーブ風味をまぶしたのがセカンドアルバム「インスタントラブ」でした。ここでいうニューウェーブとはヨーロッパを起源として、英国で隆盛を極めた音の系譜をさします。

INSTANT LOVE

このセカンドアルバムは彼らの勢いをそのままパッキングし、楽曲の完成度を飛躍的に高めたと言うことで、今聞いてもとても新鮮に聴こえる不思議な魅力のある作品です。

特に氷室のやりたいことが高い完成度で表現されています。この音の果てにCloudy Heart や わがままジュリエットがある事がわかります。

ただ、このアルバムの路線のままではマイナーな存在で終わってしまったと思います。では彼らは、ここにどんな要素を加味していったのか。

それは、布袋の趣味と思いますがニューウェーブでした。

BOØWY〜ヨーロッパのニューウェーブ風味

彼らは3作目を英国でレコーディングしています。ニューウェーブが流行していた時代の英国です。このあたりから、氷室の要素に加えて布袋の要素が大きくなってきます。

布袋のソロデビューアルバム、ギタリズムはなんと全編英語詩で、音も80年代のエッセンスをまぶした英国風のゴージャスなものでした。

このギタリズムというアルバムの音がすなわち80年代ヨーロッパポップス、ニューウェーブで、この布袋のアルバムとBOØWYの3枚目の作品「BOØWY」には同じルーツがあるように思えます。

この3枚目から馴染みやすいキャッチーな楽曲が増えてきます。Dreamin’や、ハイウェイに乗る前に、Cloudy Heartあたりですね。


また、欧州ポップ風味を日本的に解釈した、唇にジェラシー、ニューウェーブ臭のあるホンキートンキークレイジーなどなど。。。


これでバンドの方向性が定まりました。

最高傑作〜Just A Hero


この果てに辿り着いたものが、全編を欧州ポップ・ニューウェーブ一色でまとめ上げた4枚目「Just a Hero」です。


この重厚さ、そして近未来の音を思わせるキーボードやアレンジ。キャッチーさよりも雰囲気を重視したメロディー、そして、氷室の世界観満載の歌詞。

全てが重なり合ってこの名作が誕生しています。氷室的なノリと布袋的なノリが最大限活かされているのも特徴でしょう。


このアルバムを作ってしまったことで、おそらくこの先の展開が、難しくなったのかもしれないですね。ゴシップ的なことは書きませんが、いろいろと意見もあったのでしょう。

次の作品はNo. 1を取ることを目標にして制作されることになります。ここで完全にキャッチーな方向に振り切り、あの「Beat Emotion」が登場します。

キャッチーさに振り切れて〜BEAT EMOTION





まさに、今、誰もがすぐイメージするBOØWY像ですね。B.Blue、Only You、Working Man、Rain in My Heartそして、Beat Sweetでも、実際は本質はここでは無いのですよね。2作目から4作目のエッセンスが彼らの本質なのだと思います。


No. 1を取ったことで、周辺にいろいろな出来事があったにせよ、目標達成をしてすぐに解散という、潔い選択をしていくことになります。

原点回帰〜PSYCHOPATH 


1987年。まだベルリンの壁が壊れる気配がなかった時期。後2年でそれが現実のものとなるとは誰もが思わなかった時期。けれど時代は1985年のゴルバチョフ主導のペレストロイカなどに象徴されるようにすでに大きく動き始めていました。

そんな時期に西ドイツに赴いたメンバー。解散を控えて原点回帰の意味合いもあったのでは無いかと勘繰ることもできますね。

その証拠に、このラスト作「サイコパス」は、キャッチーさと欧州の重厚さが混じり合った傑作となっています。まさに原点回帰の音。

楽曲の歌詞に別れや思い出を想起させるものが多いのも、後から聞けば当時の感情が詰まっているとも思えて、、。


また、この時期にサイコパスという単語を使うあたり、情報感度も高かったような気がしますね。この数年後、サイコパスを扱ったドラマや映画が多数作られますので。。(FBI心理捜査官もの、羊たちの沈黙、、、、)

解散による何事からの開放という事実は、閉じ込められていたなにか悪いものまで世に解き放つ効果があるのかもしれませんね。90年代の開放の果てに、民族紛争が起きるなど来るべき90年代は、ややダークな側面もあったのも事実です。


早い同窓会〜LAST GIGS

さて、このあと、早い同窓会だったという「ラストギグス」でBOØWYは完全にその歴史を終えます。




「俺たちはまだ伝説になんかなんねーぞ!」と氷室が叫んだOn My Beatで早すぎた最後の同窓会は終わりました。

4人の個性が昇華したバンド

解散直後にすでに伝説となったBOØWY。再結成や再集結がなかったという潔さ。

氷室は2004年ごろと311のチャリティ、彼自身のラストギグスでBOØWYを解禁しています。でも、氷室が歌えばBOØWYかというと、なんとなくそうでも無い印象がやはり拭えず。

そういう意味では、ロックバンドのテンプレートとなった彼ら自身もまた、単なるテンプレートではなく、異なる個性の集合体、、あの4名であることが必然であったと言えるのでは無いでしょうか。

日本にロックのテンプレートを根付かせ、バンドブームまで引き起こし、6年間の伝説を残したBOØWYは80年代とともに、その姿を変わりゆく季節の向こうに消し去って行ったのでした。

季節が彼ら自身を変えていったのでしょうか。

摩天楼の彼方に

そして、、それぞれの新しいスタート。氷室は颯爽と摩天楼を駆け抜けて行くのでした。



勝手な思いとしては、駆け抜けていった摩天楼もまた原点回帰だったのかもなぁと感じます。

では、この記事のラストに別の摩天楼が舞台のこの曲を。

No.New York


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