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感動するホテルデザインの秘密:京の町家の表と裏(RAKURO KYOTOのラウンジ)

京都

京都を訪れるといつも発見があります。
積み重ねられた歴史の裂け目を覗き込み、その厚みを発見すると、人間の営為の大きさ、さまざまな時代の痕跡の数に圧倒されているのかもしれません。

例えば平安遷都時の大内裏は今の京都御所の場所ではなく、少し西側でしたが、度重なる火災で臨時に置いた内裏が南北朝時代あたりから現在の場所に定着し、今に至っているといいます。
大内裏は途中豊臣秀吉によって聚楽第になって、またそれも数年で取り壊し、現在は伝承と発掘などを参考に石碑などわずかな痕跡があるのみとなっていますが、街を歩いているといくつかの痕跡を発見することもできます。

京都全体に目を転じてみれば条坊制の名残と、新しいレイヤーが織り重なった特徴的な都市ですが、建築を建てることはその土地の気候風土に根ざしたものにするべきで、そのためには都市の成り立ち、生活の様子を具に観察する必要があります。これをさらにホテルとして成立させるためには何かの手がかりを見つけそこにストーリーをのせて、お客さんの夢を与える必要があります。

京都にできた最近のホテルを見ていると場所性に根ざしたものというよりはエキゾチシズム、つまり異国趣味として京都を演出するところが多いように感じます。これは決して悪いことではないですが京都であることとは本質的には少し距離があるようにも感じますし、外国人を含む旅行者の意識して先回りしすぎているようにも感じます。

京都らしさとは何か。そこにはある程度普遍性のある体系、形式、構造を抽出して、それを設計として着地させることが一つ解法としてあるのではないかと思います。

京の町家の表と裏

RAKURO KYOTO by the sharehotelsはもともと2018年にオープンしたホテルです。今回は1Fラウンジのデザインを一新するにあたってKIRO HIROSHIMAに続いて私たちが設計することになりました。
元のホテルは「京の町家の表と裏」というコンセプトでデザインされており、これをどのように引き継いで更新するかということがこのプロジェクトのポイントでした。
うなぎの寝床のように間口が狭く奥行きが深いのが町家の特徴ですが、RAKUROはL型プランで2面接道(エントランス面は丸太町通、裏面は両替町通りに面している)、一部に中庭を持っているという珍しい建物の形をしています。

*町家、京町家など用語の定義としてはさまざまあります

空間構成の手がかり

じゃんけんと同じように、さんすくみの強弱関係で勝ち負けを決めるゲームに狐拳(藤八拳ともいいます)があります。
ご存じのとおり、じゃんけんはグー(石)はチョキ(はさみ)に勝ち、パー(紙)はグー(石)に勝ち、チョキ(ハサミ)はパー(紙)という要素の関係で成り立っています。これの関係を変えずに、要素を置き換えて狐拳という別のゲームに置き換えることができます。
狐拳は庄屋は漁師に勝ち、漁師はキツネに勝ち、キツネは庄屋に勝つという勝ち負けの要素感の関係があるのですが、要素は違うが関係性はじゃんけんと同じです。
例えば
A:ぐー→庄屋
B:チョキ→漁師
C:パー→キツネ
としてもA>B> C >Aの体系(≒構造)を持っているといえます。

もしも、じゃんけんと狐拳に見出した体系(≒構造)を京都の町家とこのホテルとの間に見出せれば、要素は違うけど同じ体系(≒構造)を持った空間概念として考えることができます。

空間の操作について

もう一度、京都の町家をみるとうなぎの寝床のように奥行きが深いことがありました。
要素をみると、店(みせ)があり、台所があり、走り庭があり、中庭、奥庭があり、奥庭に面する形で座敷があります。さらに奥に蔵や離れがある場合もありますね。京都のホテルで求められる京都らしさの多くは、その様式性を踏襲して現代的にアレンジすることが多いように思います。
しかしRAKUROではそのような様式、スタイルというものは一旦脇に置き、町家の持っている骨格や形式性を手がかりにしています。
そのほうがより本質的で記憶に残りやすいと考えたからです。

Photo:Marc and Porter


2面接道のプラン

今回の特徴的なことは建物がL型プランで2面接道(丸太町通、両替町通り)なので、奥庭と見立てられるガレージはそのまま両替町通りに面する表面になることになります。
そこに店(レセプション周辺)があり、台所(カフェ)があり、通り庭(細い通路があります)、中庭があり、奥庭(駐輪場ガレージ)があると京都の町家とホテルが、じゃんけんと狐拳のような要素変換による同じ体系(≒構造)を持ったものにとらえることができそうです。

Photo:Marc and Porter

RAKUROの作り方

さらに上述のような裏が表になるような骨格が加わるとプランとして重層的になり明快な京町家の空間に重層的なレイヤーが加わります。
元々が駐輪場として使われていた奥庭のガレージは巨大な苔玉が吊られ(水やりもありますがガレージで外部なので防水の心配もなし!)両替町通に対しての新しい「表」になり、正面からは奥庭に面する座敷(グレーチングの円窓で切り取られた苔玉ラウンジ)の役割が与えられます。新しい「表」は使える場所として不動産のバリューアップにもなります(クライアントのリビタは不動産会社なので)。
半外部のそっけないガレージに、巨大な苔玉が吊られ、そこで立ち飲みイベント、あるいは時間貸しをするアイデア、さらには反転した裏表に乗じて苔玉を背景とした新しいレセプションを作る、という展開の可能性もありそうです。

ラウンジの作り方

ホテルのコンセプト

空間のコンセプトは上述の通りですが、その上位概念としてホテルにはリニューアルのホテルコンセプトがあり、空間はそれに沿って作っています。
RAKUROでいうと京都御所のすぐそばという立地を生かして都市の中の自然、暮らしと植物ということがホテルのコンセプトになっています。
ホテルのコンセプトに空間のコンセプトが伴走していき、最終的に空間がスムーズに取り込まれていくようなそんなイメージをしながら進めています。

アートや家具、植物、選書、選曲、アロマ蒸留器もそれらのコンセプトや京都という文脈に沿ってホテルに組み込まれていきます。設計としてはそれらの想定をしつつ、それらが入ってきた時に調和が取れるように、さらにはそれぞれが自分達の力で空間が成立していると思えるようにスムーズなパスを渡すことを心がけています。

Photo:Marc and Porter
Photo:Marc and Porter
Photo:Marc and Porter
Photo:Marc and Porter
Photo:Marc and Porter
Photo:Marc and Porter
Photo:Marc and Porter
Photo:Marc and Porter
Photo:Marc and Porter
Photo:Marc and Porter
Photo:Marc and Porter

Client : Rebita Inc. MAsaru Kitajima,Tomohiro Ueno
location : KYOTO,Japan
Architectural Design : HIROYUKI TANAKA ARCHITECTS
project team : Hiroyuki TANAKA,Hiroki HANAZUKA,
Construction : TANK YamYam
lounge furniture : COMPLEX UNIVERSAL FURNITURE SUPPLY INC,
lab furniture : TANK, YamYam
Styling : Kankakari(KYOTO)
Hanging Moss : MIchikusa(KYOTO)
Plants:Maestro(KYOTO)
Music Select:Hiroshi Yoshimoto (resonance music & bar buenos aires)
Book Select: SEIKOSHA
Art Work: RUI SASAKI
Photo:Marc and Porter

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