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映画「米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー」を観ました

ぐっと涙が滲む。

なんだこれは。

悔しさだ。

なにがこの悔しさを沸き起こらせる。

暗い映画館のなかで、自問する。

私が感じていいのだろうか。
知識として知っているのと、
体験するのは、違うから。

知らないのに、込み上げてくるもの。

人民の声は、古くならない。

もう許せない。屈さない。
人民の怒りと主張。

民主主義とは何か。
人権とは何か。

正論は、時に逃げ道を奪い、
人を救わない事があるけれど。

人を救う為に、
まっすぐ筋の通った主張を貫く。

正しい主張が勝つ世の中であってほしい。

選挙によって選ばれたにも関わらず、追放工作によって、那覇市長を二度も追われたカメジローさん。

それでも、落ち込む姿は見せず、
「勝ちました」と言える強さ。

それは、しっかりと見据えた沖縄の未来があったから。目の前の出来事に左右されず、先を見て、その時に必要な行動をし続けたから。

正しい主張であるからこそ、恐れられた。

何度も期待を裏切られた続けた沖縄。
日本を守る為の地上戦。
アメリカ統治下の民主主義。
祖国復帰後の日本政府。
次から次へと失望が続く。

カメジローさんは、沖縄の声が、日本に届き、さらに大きな声となっていく事を望んでいたけれど、その声を、沖縄の声を、日本が受け取り、全国民が共闘することはなかったのではないかと、沖縄返還後に生まれた茨城育ちの私は感じている。

私自身が、大人になるまで沖縄のことを、
ほとんど知らなかったから。

アメリカ統治下の沖縄の苦渋。

日本の人たちはみんな、知らんぷり。自分たちの事で忙しい。経済成長の事で忙しい。勝手に戦後を迎えてた。

それは、あまりにも偏った見方だろうか?

生きることで精一杯だったのは、
沖縄も日本も一緒だけど。

沖縄が受け続けた暴力。基地負担、土地の強制接収。婦女暴行、幼女暴行、墜落事故、車で轢き殺しても無罪。不当な労働環境、民族差別、無理解。

アメリカだけでなく、
日本からも暴力を受けている。

悔しいよ。

そして、その日本人が私だ。

悔しいよ。

アメリカと日本は、それぞれの思惑を通す為に、沖縄県民同士を分断しようとした。

沖縄と日本を分断することも、
計画のうちなのだろうか。

それは身勝手な日本人である私の言い訳か。

そう思っていたら、図書館で佐古監督が書いた本を見つけた。「米軍が恐れた不屈の男」瀬長亀次郎の生涯(佐古忠彦:著/講談社/2018年)」を読んで、知る。

それは、心理作戦の賜物なのだと。

沖縄と本土を分断しようと、両者の間にある精神的な亀裂に注目し、沖縄戦では「心理作戦」が展開された。

それは、戦後も同じ。

沖縄の声が本土に伝わって、アメリカの占領や基地負担に反対する国民たちの連帯が強まる事は、アメリカと日本の特権階級の人たちには都合が悪い。本土と沖縄を切り離す為の心理作戦は続けられた。

戦後の日本国憲法で、保障されたこと。
・国民主権の確立。
・恒久平和。
・基本的人権の尊重。
・議会制民主主義。
・地方自治権。

アメリカ統治下の沖縄では、どれも保障されなかった。

カメジローさんは、平和と民主主義、自治と人間らしい暮らしを勝ち取ることを目指した。

常に法的根拠のある行動、法律的な裏づけを意識していたカメジローさん。ハーグ陸戦条約(戦時国際法のひとつ)に基づき、ただひとり起立を拒んだ。

「占領された市民は、占領軍に忠誠を誓うことを強制されない」

本当の敵は誰か。
本当に解決すべき問題はなにか。

そして、上記の本を読んで、本土からカメジローさんを応援する手紙が沢山届いていた事も知った。沖縄の声が、本土にも届いていた事が嬉しかった。本土の人たちも共闘してくれていた事が嬉しかった。

カメジローこと瀬長亀次郎さんは、本好きで、刑務所でも本を読んで学び、常に知識を蓄えただけでなく、沖縄戦を生き延び、戦後は田井等市助役として救援活動を行ったり、新聞記者を経てうるま新報(現琉球新報)の社長を務めた。那覇市長を追放された後も、沖縄の為に奔走し、戦後沖縄初の衆議院議員に当選した。

隠す事がない、まっすぐな主張は強い。

カメジローさんと佐藤首相とのやりとり。
人民の為の政治をしているかどうか。

発言はもとより、
顔つき、声色、纏っている雰囲気が物語る。

言葉の内容が伝わるんじゃない。
それ以外のメッセージが伝わる。

納税しにきたおばーの話。カメジローさんを追放する工作により、銀行は止められ、那覇市の水道も止められた(市民を巻き込むむちゃくちゃな追放工作)。那覇市民の人たちは、自分たちの暮らしに必要な資金を納税しに市役所を訪れた。必要性を強く感じれば、市民は積極的に納税する。そして、自分達が選んだ市長であるカメジローさんを支えた。

カメジローさんの「魅力」。
人として、まっすぐ。ブレない主張。

暴動の起きた刑務所での出来事。暴動を起こした受刑者達に、非暴力による団体交渉を提案するカメジローさん。同じ事を言われても、信頼していない看守の提案は聞き入れられなかったけれど、信頼されたカメジローさんの声は聞き入れられ、その後、話し合いによる交渉が成立した。

そして、あれは暴動ではなく、人民が虐げられた事実に対する、正当な抵抗であるとカメジローさん。

豊富な知識と経験、伝えるという確かな技術を兼ね備えていた事もあるだろうけれど、

人を人として尊重し、沖縄はもちろん、服役中の人も、自分を追放しようとする対抗勢力さえも尊重する。

そんなカメジローさんの一貫した態度や信念に、人は魅力を感じ、心を動かされたのではないか。

自分には力がない。
何もできない。

そう思い込まされて、
力を奪われている人たちに、

あなたの声にも力がある。
小さな声も、数が集まれば、大きな力を持つ。

力の使い方を教えてくれる。

不満や怒りがあっても、どうすれはいいか分からなかった人達に、すでに持っているのに、使い方の分からなかった力の使い方を、教えてくれる。

やり方が分かれば、できる。

みんなが奪われていた力を、
みんなが持つ力を、思い出させてくれる。

私の力に気づかせ、引き出してくれる。
私の、私たちの可能性を広げてくれる。

そんな人のことを、好きにならないはずがない。

それが、カメジローさんの魅力だったんじゃないかな。

沖縄の人たちの暮らしを取り戻す。
民主的で人権の尊重された暮らしを実現する。

みんなの願いを叶える為に、尽力している姿が、誰の目にも疑いようがなかったからこそ、人を惹きつけたし、アメリカを恐れさせたのだと思う。

カメジローさんが亡くなった現在も、
残念ながら問題は続いている。

基地問題については、答えがひとつではない事は、私にも分かる。沖縄の負担が大きいのは事実。負担軽減の為に沖縄と日本の話し合いは必要。だけど、当然日本だけの問題じゃない。日本とアメリカ。アメリカと近隣諸国。戦争が続く間は、基地問題は終わらない。

本当の敵を見誤らない。
本当に解決すべき問題をみる。

日本人の力は、すでに奪われているのではないか。

怒りや疑問を持つ以前に、知らない。
いや、知らされないのかもしれない。
でも、知ったとしても、主張を諦める。

考える力も、怒りさえも、
奪われているのかもしれない。

権力者の思惑通りだ。作戦は続いている。

考える力。知る力。伝える力を身につける。
小さな声を、自分で消してしまわないように。

私のなかのカメジローさんを絶やさない。

不屈館にも、行ってみよう。

映画「米軍が最も恐れた男 その名はカメジロー」は、シアタードーナツにて、2023年6月14日(水)まで公開中です。

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