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『生理のおじさんとその娘』を見た生理のおばさんの戯言~命の始まりは「血」、生理は命を宿せる女性の幸せな宿命~

ヒトの命の始まりは一言で「血」だと思う。卵管で待ち構えている、卵巣から排卵された卵子が精子と出会い、受精卵ができるとようやく子宮内へ移動する。子宮までうまく辿り着けない場合、子宮外妊娠も起こり得る。無事、子宮に到着した受精卵は着床し、胎のう内で胎芽(胎児の前段階)や胎盤を形成し始める。胎芽は初めに心臓や主要な血管が作られるらしい。つまりそれは何よりまず先に、血液が作られると考えられるだろう。胎芽から出た血管は臍帯を通って、胎盤へ入り、絨毛と呼ばれる部分へ伸びる。薄い膜を介して、胎芽の血液と絨毛周辺で流れる母体の血液の間で、成長に必要な物質が交換される。
 
胎児と呼ばれるようになった後も、臍帯を通して、母体の血液から酸素や栄養などを吸収して、成長を続ける。当然のことかもしれないが、母親の血液が胎児の元まで届かない限り、胎児は成長することができない。妊娠中、貧血になりやすい妊婦が多いのは、母体の血液が胎児を成長させるために、集中して子宮に流れるためだろう。
つまり母親の血と胎児の血の双方がうまく循環しない限り、命は生まれることができないと言える。命の源は「血液」に他ならないと思う。
 
無事に生まれた赤ちゃんが成長するために飲む母乳も、赤血球が取り除かれた母親の血液から作られているものなので、子宮の中にいる時も、生まれた直後も、始まったばかりの命は本当に母親の「血」のみを頼りに生きていると言っても過言ではない。そう考えるとやはり血液は命の源だ。
 
命の源になる血液は、命を生み出す力を持っている女性に「生理」という現象も与えた。生理は出産可能な年代の健康な女性は避けて通れず、命を宿すための現象であるからまさに女の宿命とも言える。身体が命を宿せる状態にあるというサインで、本来は尊いもののはずなのに、生理は尿と違って自力で我慢したり、コントロールできない出血が起きるという特質上、うっとおしく煩わしいものとされ、あまり歓迎されることはない。
昔は初潮を迎えると、おめでたいこととみなされ、お祝いもしたらしいが、歓迎するのは周囲の大人たちであって、当の本人にとっては煩わしく面倒な現象だろう。
 
そんなネガティブで暗く、隠されがちな生理を、思いっきり明るくオープンに描いてくれたドラマに私はくぎ付けになった。NHKで放送された『生理のおじさんとその娘』というドラマだ。予告で知り、おもしろそうだなと見始めると、CMもない73分という放送時間があっという間に感じた。見終えた後はすっきり爽快感があった。
元気で明るいイメージの原田泰造さんは生理のおじさんのハマリ役だったし、他のキャストも適役だったが、何より設定に隙がなく、完璧だったと思う。具体的な病名が明かされることはなかったものの、(おそらく子宮の)病気で妻を亡くした、生理用品メーカーに勤めるシングルファザーが、生理の広告塔として奮闘する。生理のおじさんには思春期の娘がいて、生理期間中は娘のためにナプキンを準備し、もちろん娘の生理周期も把握している徹底ぶり。リアルではちょっと考えられない(本当にいたら怖い)けれど、生理をテーマに描くなら、それくらい斬新な設定があってもいいと思った。娘だけでなく、息子もおり、その息子もさすが生理のおじさんの息子というだけあって、生理や女の子に対して、理解がある。ヒロインの家庭は生理のおじさんがいるおかげで、生理に先進的な家だったが、一方で、昔ながらの男は生理に関心を持ってはいけない、女同士で密かに解決するものと生理をタブー視する、ヒロインの友人宅もちゃんと描かれており、それぞれ極端な家庭だからこそ、対比が見事なドラマだった。罵り合うのではなく、「ラップ」という手段を使って、言いたいことを主張し合うという演出も、生理という語りにくいテーマを語る上で効果的だった。生理を冷やかし、エロいものと捉える男がいたり、子どもなんて産むつもりないから生理も子宮もいらないと本音を吐く女の子がいたり、生理を抜かりなく、様々な角度から見て、偏ることなく、それぞれの主張を言わせた点も良かったと思う。生理にまつわる問題がすべて解決したわけではなかったが、問題提起したことがこのドラマの何よりの功績だと思った。生理にまつわる問題があること自体が問題なのかもしれないと。男女問わず、生理に理解を示し、誰にでも相談でき、言わなくても生理中の女性にやさしくできる社会、生理の悩み事なんてなくなる社会が究極の理想かもしれない。しかしそんな社会はまずありえないし、男は生理なんて一生経験できないし、生理のおじさんのように上から目線で女より分かったつもりにならないでと言いたくなる作中の女性たちの気持ちもよく分かった。
 
逆に言えば、女だって男の気持ちを完全に知ることはできない。今の若者はそうでもないらしいが、どちらかと言えば女より男の方がHと思われやすい。男は何であんなにいつもHなんだろうと理解できない時期もあったけれど、よく考えてみれば、男は女と違って、自分の子孫を残すためには受け身ではいられず、積極的に行動を起こさなければならない。女の卵子は動けない分、排卵されたらただじっと待っていることしかできない。だから女は生物学的に受け身の人が多いんだと思う。逆に男の場合、卵子をみつけるまで精子は活発に動き続けなければならず、そのような精子の性質上、能動的な男性が多いのだろう。それに女はその気にならなくても(その気がない時も)、性交できてしまうけれど、男はその気にならなければ身体上の問題で(勃起という状態をキープできなければ)そもそも性交もできない。だから男の方がHなんだと思うと知人から教えられた時、説得力があり、妙に納得してしまった。とは言え、身体の仕組みが違うため、やっぱり完全に異性を理解することは難しい。けれどなんで男ってあんなにHなんだろうと嫌悪感を示すよりも、身体上の違いを把握し、欲情しやすいのは男が子孫を残すための戦略かもしれないと理由を知れば、そこまで嫌悪感は抱かなくて済むと思う。
 
つまり生理もそういうことで、男は女の身体じゃないから、絶対体験はできないけれど、命を残すための尊い現象なんだ、生理がなければ全人類誰も生まれていない(ドラマ内のセリフ)のだから、生理を冷やかしたり軽く思うことなく、毎月生理に耐えてくれてありがとう女性たち、生理でつらい時は男が代わりにがんばるから、くらいは心の中で思ってほしい気はする。おなかに電極をつけて電流を流して生理痛の疑似体験みたいなことしていると生理のおじさんは言っていたけれど、正直、そういうビリビリした痛みと生理痛は全然違うと思う。生理痛はずーんと重く、ズキンズキンと奥底で痛みが響く感じだから、ただの腹痛とは違う。あれを疑似体験するとなると、男も子宮という臓器を体内に組み込んで、出血を経験するしかないと思う。生理はただの血液じゃなくて、子宮内膜もはがれ落ち、それが含まれる血だから、特有の鈍い痛みがある。ドラマで「どろっと」という表現が何度も使われていたように。だから切り傷、擦り傷で出血する時の痛みとも違う。位置は近いけれど、痔とも違う。残念ながら、やっぱり生理を経験した女性にしか、生理痛は分からないことだと思うけれど、そういう決して快適とは言えない出血期間があるんだということを男性に分かってもらえるだけでも、女は少し心強くなれると思う。
 
うちの場合、妹がPMS(月経前症候群)よりもひどいらしいPMDD(月経前不快気分障害)という病気を患っているため、生理のおじさんの家庭とは逆で、妹本人が家族に生理周期を勝手に伝えてくる。「PMDDが始まったから、騒がないで」とか「生理中だから気分悪い」とか。体調がよっぽどつらいらしく、父にも伝えようとする。私は同性だというのに、「鈍感で生理の軽いお姉ちゃんには分からない」と八つ当たりされる始末。家族に教えないだけで、生理前は涙もろくなったり、胸が張って乳首が痛くなるし、食欲も増す。生理だって若い頃と比べたら軽くなったけど、生理痛が全くないわけじゃないし、少なくとも父よりは理解しているつもりだ。しかし月経前不快気分障害というだけあって、妹からはかなり攻撃される。うつとか涙が止まらないとは逆で、イライラ、怒りが強い分、怖い。本当は他の疾患のせいもあるけれど、本人が生理のせいと言い張るものだから、そのPMDDの期間は、妹に近寄れない。刺激しないように、なるべくそっとしておくしかない。それから欲しがられた食べ物を与えるしかない。昔、ダイエット願望が強かった頃、しばらく生理が止まった時期があったせいで、妹は生理が来ないうちは不安感が強まるというのもあるかもしれない。
 
私自身は生理不順な方だと思う。周期なんてないに等しいし、半年くらい来ないと思えば、ダラダラ1ヶ月少量の出血が続いたりした時期もあった。もちろんそんな時は婦人科に行き、調べてもらったが、私の場合、男性ホルモンも女性ホルモンも多いらしい。うまく排卵していないかもしれず、不妊症気味だろうと言われたこともあった。貧血の反対で多血と診断された時もあった。学生時代はホルモン注射で生理を促したこともあった。初潮も小2とかなり早い方だったし、普通の身体ではないのかもしれない。ホルモン異常というか…。成長は早かったけれど、成長が止まるのも早かった。初潮なんてまだ理屈も分からなかったし、はっきり覚えてもいない。ただ「砂場で泥遊びして汚してきたんでしょ?」と母から注意されたことだけは覚えている。たぶん母は小2で生理なんて信じられなくてそう言ったんだと思う。そのうち初潮と気づかれ、ナプキンの扱い方を教えられた。
 
生理は早くから始まってしまったけれど、生理不順で排卵もそれほどされていなければ、もしかしたら早く閉経することはないかもしれないが、それにしても年々、どろっとした子宮内膜が剥がれることによる不快な出血は減ってきている気がするし、ナプキンだって夜用が必要にならなくなったと思えば、今度は多い日の昼用だって減り方が遅くなってきている。昼夜、普通の日のナプキンで間に合うことが増えたから、確実に生理の出血量は減ってきていて、身体は楽になったけれど、少しだけ寂しい。だって生理が減ったということは、自分の血で命を育めるかもしれないリミットが迫ってきている証拠だから。正直に話せば、子どもの頃から別に私は子どもを産めなくていいと思っていたし、子どもが大好きという人間ではなかった。けれど不思議なことに、生理の質が変わって、とっくに生理人生は折り返し、年々閉経が迫りつつある近年になったら、たぶん生き物としての本能なんだろうけど、残せるものなら子孫を残したかったと思うようになった。そのせいかあれだけ不規則だった生理周期も安定し始め、この歳になって今さら規則的な生理周期になりつつある。命になりたかったと卵子が悪あがきしている気がして、切なくなる。何しろ卵子の元になる原始卵胞は母親の子宮に命が宿った時点で間もなく作られる細胞らしく、卵胞は数としては生まれる前の方が多いというから、誰しも命を残すために生まれたようなもので、命を残したいという執念さえ感じる。だから胎児の頃から身体の中に存在する卵子の仕業か、本能的に命を残せたらいいのにと考えることも多くなったけれど、自分はそれを実現できる境遇でも経済能力もないので、つらい。子どもがほしくなるかもしれないことをもう少し早くから考えて、金銭面も含めて、用意周到に準備しておけば良かった。まだギリギリ、子どもを産めるかもしれない年齢だからこそ、余計につらい。更年期のはしりなのか、閉経したら生きる気力さえなくなるんじゃないかと最近は不安に思うことも増えた。命を作れなくなる状態になることがこんなに寂しいことなんて、若い頃は全然想像もできなかった。
 
だから私は生理が重くてうんざりしている若い女の子たちに伝えたい。どろっと出血が多くて、痛みがひどいのは一生続くわけじゃなく、命を授かれる可能性があるうちだけ。今はまだ子どもなんてほしいと思えなくて、一生産むつもりはないと思っている人もいるかもしれないけど、生理が終わりかけの頃にやっぱり子どもがほしいと気が変わる場合もあるから、生理を敵(かたき)のように思わず、攻撃をうまくかわしながら、生理と仲良くうまく付き合ってほしい。不快な現象も、命を宿し、出産するための練習と思えば、少しは耐えられるかもしれない。何しろ出産時の痛みは生理痛の100倍とも聞くし、産みの苦しみを考えれば、たぶん生理は乗り越えられるはず。
 
生理は痛くて苦しくて面倒で恥ずかしくて、この世から消えてしまえばいいものなんかじゃない。厄介な痛みと苦しみを経験した後、命を授かり、出産できた時の喜びや幸せはきっと計り知れないから。生理は恥ずかしいことじゃなくて、命を育める可能性があるというサインであり、尊いこと。だから初潮を迎えたら特に、自分の身体を大切にしてほしい。生理中だからと言って、鉄分を多く摂らなきゃとほうれん草ばかり食べなくてもいいし、女性ホルモンの代謝を低下させるから甘い物や脂っこい物は控えなきゃと我慢し過ぎなくていい。(なぜか生理前や生理中こそ、そういものを食べたくなる場合もあるし。)生理中は少しでもハッピーに過ごすために、おなかが痛くても受けつけてくれる好きなものを食べ、無理せず、我慢し過ぎない生活を心がけたらいいと思う。出血が気になって、寝不足になる夜だってあるし、がんばりすぎない方がいい。生理中くらい自分を甘やかしていいと思う。だって生理中は、命を宿せなかった身体が次の排卵に向けて、リセットする大事な時期だから。子宮の状態を常に更新して、いつでも命を迎えられるように血で大掃除しているようなものだから、生理は悪者じゃない。
 
命を授からない限り、子宮なんて役に立たない臓器だけど、授かった途端、本領発揮して、どんな他の臓器より劇的にサイズも変わって、無事に生まれるまで新たな命を懸命に守ろうとする。子宮にだけ免疫寛容があるおかげで。他の臓器なら他者の細胞は異物とみなし、免疫機能が働いて侵入した細胞は排除の対象にしてしまう。(臓器移植などで他者由来のものは拒絶反応が起きるのは免疫機能が働くため。)なのに子宮にだけは免疫寛容が起きるから、異物であるはずの父親由来の細胞も含む胎児は排除されず、子宮内で育つことが可能なのだそう。命を授からない限り、沈黙している子宮って臓器は、実はすごくやさしくて、臨機応変な臓器だと思う。卵くらいのサイズがスイカほどの大きさにまで変化するし。いざって時(命が宿った時)、活躍する臓器だから、月1で大掃除が行われ、その時が来るのをじっと待つのだろう。だからちょっとつらいけど生理は身体にとって大事な現象だから、受け入れるしかない。命を宿せる女の幸せな宿命だから。
 
毎朝、基礎体温を測ると排卵や生理予測ができるからお勧め。基礎体温をつけているおかげで、そろそろ来るかもしれないと予測はできているし、実際当たる。身体はうまくできているもので、高温期、低温期ってそこそこちゃんと区別できる。憂うつな生理を予測して、心構えや準備することも、ハッピーな生理ライフを送るためには必要なことかもしれない。生理期間だけでなく、生理前後、毎日ずっと自分の身体の変化を把握して、自分の特徴をつかめば、生理とうまく付き合えるようになるだろう。
 
卵子が少なくなったと気づいたら、あれだけうざかった生理が愛おしくさえ思えるようになった。あと残り何回、生理が来てくれるかななんて、数えてしまうほど。自分が命になった瞬間から共に生き続けている卵子に精神的に支配されているだけかもしれないけれど、生理が愛しくなる場合もあるから、できれば生理という現象を大事にできたらいいと思う。以上、33年ほど生理と付き合い続けている生理のおばさんが『生理のおじさんとその娘』を見て、生理と命に向き合って考えた、戯れ言でした。

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