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駆け引き

私は1人の女に固執していた。 固執しているというか、どうかんがえても変な女で、こちらのことを好きだと言ったり、早く会いたいと言ったり、こちらが早く会いたいと返すと、私はそんなふうなことを言われる立場にはないというような押し問答を返したりしてきた。 明らかに、人を惑わす女だった。だが、それをやっても許されるぐらいの美しい女でもあった。 そして私もその女も既婚者であった。ある友人にそのことを話したら「既婚者同士がデートしたり会いたいとか言い合ったり、いい回答が来なかったから落

    • 愚行権

      頼子は1ヶ月前からタバコと酒をやめた。 46になった誕生日で、旦那と子供の前で公言した。頼子はいまだに噛みタバコを吸っていて、会社でもかなり珍しい存在として認識されていた。旦那は頼子の酒とタバコの習慣について、見て見ぬふりを15年以上続けてくれていた。タバコを子供の前で吸うわけでもないし、酒が入るとたまに男と寝て帰ってきたりするが、それも旦那は許容してくれている。 若い頃、遊んでいた男とディアンジェロのコンサートに行ったことがあった。その時、そのライブハウスにいたほぼ全員

      • 養分

        飯沼健吾は、自分がその女に執着していることを明確に理解していた。朝起きるとその女のことを考え、昼にはおそらく深層心理で50回とか100回とかそういう回数、その女のことを考えている。 女とはバーで出会った。4度ほどバーで一緒になり、今度デートしないか、という話になった。健吾は酔っ払っていて、気が大きくなっていたのもあるが、その女の顔が好きでたまらなかった。女は稀にみる美人だった。背が高くて、細くて、顔が整っていた。かんたんにヤらせてくれそうなところも魅力的だった。 一度、デ

        • 自己肯定感

          私は男を転がすのが大好きだ。 昔、男と何度目かに会った時に、「抱かせてほしい」と言われ、私は「今日はダメ」と言った。そうしたら男が「じゃあ今日はあなたを思い出してオナニーするよ」と言った時、どんな口説き文句も勝てないぐらいに私を濡らした。 自分のことを思い出してオナニーする男がこの世に何人もいるというのはどんな気持ちなんだろうと思った。セクシー女優のことを思ったが、直接的すぎて私の理想とはかけ離れていると思った。 直接的に性器を見せたり性行為を見せたりするだけではダメで

        駆け引き

          経済活動

          私は、鈴木恵美という名前で、今年39になる。 2人の娘と池袋の小さいマンションに住んでいて、隣のマンションには大学生たちが住んでおり、毎晩騒がしい。 数日に一度はセックスの声が聞こえたりしてきて、娘たちにそれが聞こえていないだろうかと不安になって起きてしまうことがある。でも2人とももう高校二年生と大学一年生だから、まぁそんなもの聞いてもなんとも思わないかもしれない。 マンションの目の前には銭湯があって、離婚直後、本当にお金がなかった時は、ガスを止められることもあって、よ

          経済活動

          言語感覚

          私は日本語がよくわからなくなるときがあるが、それが、イギリスに数年間留学していたからなのか、それとも本質的に私自身の頭の悪さ、もしかしたら何かしらの発達障害のせいなのかよく分からなかった。まぁ、海外に数年間いたぐらいで日本語が下手になることはないだろうから、おそらく私には言語的なハンディキャップがあるのだと思う。話しているときはそんなことはない。流暢だ。だが、書き言葉になった途端に、言葉がぜんぜん出てこないのだ。友達や旦那や何人かいる恋人とLINEしてても、「それってどういう

          言語感覚

          後悔

          仲村が改めて絵を描きだしたのは、コロナ渦からだった。子供の頃から、アートや音楽や映画などにまつわることが好きだったのだが、それを無視してこれまでの社会人生活、無味乾燥を生きてきた気がする。 高校生の頃はバンドをやっていた。そこそこ真面目にやっていたのだが、思い返すと、ふざけたバンド名をつけていたし、とにかく、真剣に物事に向き合ったことがないのだな、おれは、と最近とくに仲村は思うのだった。 仲村の昔の友達では、それなりに成功している奴らが多い。これは不思議なことなのだが、会

          痛み

          土曜日、聡子は自分がいかに簡単な女かを思い知らされた。 前日の金曜日に、福田から連絡があった。 仕事でストレスが溜まっているから、飲みたい気分だ、と。 断ればいいものを、聡子はのこのこ指定の飲み屋まで出向いた。 ついでに、福田からもらったネックレスをつけていくかどうか悩んだ後、つけていった。 その日の夜、聡子は福田に雑にホテルに誘われ、抱かれた。 福田は一緒に寝てくれなくて、朝の5時ぐらいにホテルから解散して、自宅で心を落ち着けてから寝たのが朝の8時、それから寝たり起

          時間

          飯沼健吾は週末は当然のことながら、平日の仕事の少しの隙間にも、XやYouTubeを見る。スマホ中毒と言っていい。テレワーク中などはひどいもので、会社のメインのPCの周りにタブレットとスマホを何台か侍せ、ついでに外部モニターも2台使って、仕事をしているんだか、SNSを見ているんだか、映画を見ているんだか、YouTubeを見ているんだか分からないような状態を何時間も続け、いつの間にか終業時間になっている。終業時間になっても、普通に変わらずにこの状態を続けている。 たまに紙の本を

          擬態

          どうしても仕事が進められない。 手が動かない。こんなこと自分がやる仕事じゃない、という感覚が強い。 会社のために何かをするなんていうのは、私には向いてない。パソコンを前に、飯塚明子はそう思っていた。今日だけの感覚じゃない。この会社に入社してから今に至るまでの1年強ずっと考えていた。というかよく考えたら、それは物心ついた時から感じている強い社会に対する違和感だった。 小学生の時、運動会で明子は自分のクラスを応援できなかった。勝手に割り当てられたクラスという枠組み、給料をも

          ごめんなさい

          飯田美子は歩道橋を登りながら、化粧をしてこなかった自分を少しだけ悔やんだ。 化粧をしてこの男を向かい入れること自体、今回の男女のゲームにおいては負けだと思い、ほとんどすっぴんで男を迎えにきた。と言っても、美子は今回の男に限らず、男女のゲームに勝ったことなど一度たりともなかった。 歩道橋の真ん中で、しばらく男を待った。まだ大学生の男だ。看護師をしている美子に、何度か金を借りに来ている。今日もそんな感じになるのだろうか、と思うと美子は胸が苦しくなった。あまり残念に思われたくもな

          ごめんなさい

          落ち目

          飯島由紀子は甲州街道を1人で歩いていた。 最近できた新しいホテルに向かっていた。 今から会う男が、新宿三丁目の方を指定してきたので、「人混みはちょっと」と避け、自分でホテルを指定した。このホテルには一階にいいレストランが入ってるらしい。家から近いそこに行ってみたかったのと、男が期待外れでも、すぐに帰れるような場所を選んだつもりだった。 ホテルに入ってから、タクシーでくるという男をしばらく待っていたが、10分ほどして男が到着した。 「こんにちは」 「はじめまして」 会っ

          落ち目

          荒木町の居酒屋屋に入って、ハラミを2本頼んだ。 ここは串につける味噌がうまい。 二台目のiphoneは裏返しにしている。 開いたら最後、仕事のSlackの通知が大量に来ているはずだった。 金曜日ぐらいはゆっくりしたい。 私はハラミにたっぷりと味噌をつけてから口に運んだ。 そして、先週帰った実家のことを思い出していた。 テレビでみるような、ゴミ屋敷だった。 いつからお母さんはあんなことになってしまったんだっけな。 家族のライングループから弟が抜けたのが5年前、その3〜

          日常

          息子のバレーボールを観戦していると、ママ友の一人が話しかけてきた。 「Aさんバレーとかやってたんですか。ほら、背が高いから」 バレーなんてやったことがなかった。 私は生まれつき背が高いだけだ。 コートに目をやる。息子が飛び跳ねている。 もう小学6年生だ。 刈り上げた髪型が眩しかった。 きれいな顔に生まれてきてくれて本当によかった。見るたびに思う。 バレーボールの試合が終わると、ママ友と軽く挨拶をしてから家に帰った。 「よかったね! 勝てたじゃん。ぜったい勝てるっ

          ぐちゃぐちゃ

          今日はパンケーキを作ろう。 そう思って私はベッドから起き上がった。 私は、家で一人だけの時間が好きだった。もう今日は朝から2回オナニーをしてしまったから、あと1回しかできない。夜に残しておかなきゃ。でもいつムラムラするか分からないから、夜まで保たないかもしれない。 キッチンに立つと、気が変わった。 青椒肉絲が食べたくなったけど、冷蔵庫の中にピーマンがなかったので、私は肉焼きそばを作ることにした。お父さんは仕事だけど、お母さんはどこに行ったのだろう。スーパーか、友達とご飯に

          ぐちゃぐちゃ

          私たちは他人

          ベッドから起きられない。 隣に男がいる。名前なんだっけな。 私は男のそれが朝勃ちしているのを見て、パンツを脱がせてあげた。大きい。見るからにカチカチだ。仰向けに寝ている男のそれを口に加えた。 朝からセックスするのが好きだった。 男が私のフェラチオに気づいた。「何してんだ」と笑っている。私は「朝からこんな大きいものを舐められるなんてうれしい」と変なことを言っている。口から自然にいやらしい言葉が出る。いやらしいというか、男が喜びそうな言葉が自然と出る。 遮光カーテンのせいで

          私たちは他人