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養分

飯沼健吾は、自分がその女に執着していることを明確に理解していた。朝起きるとその女のことを考え、昼にはおそらく深層心理で50回とか100回とかそういう回数、その女のことを考えている。

女とはバーで出会った。4度ほどバーで一緒になり、今度デートしないか、という話になった。健吾は酔っ払っていて、気が大きくなっていたのもあるが、その女の顔が好きでたまらなかった。女は稀にみる美人だった。背が高くて、細くて、顔が整っていた。かんたんにヤらせてくれそうなところも魅力的だった。

一度、デートで高級レストランに連れて行った。
それから女にアクセサリーをあげた。初回のデートですでにそんなことをしているのだから強い好意があるのが女に伝わっているはずなのに、それでも女は他の男の話をした。何人もの男とデートしているという。しかし、その真意は健吾にはわからなかった。女がなぜ、自分に他の男の話をするのか。フランクなセックスを求めているのか、ただのデートを楽しもうとしているのか。ただのバカなのか、ぜんぜんわからなかった。

女とはそれから3度ほど会った。
だが、行きつけのバーでも、その女は他の男とデートしていた。

この女の尻をこれ以上追いかけるわけにはいかなかった。時間が勿体無いし、バーの他の男の客と険悪なムードになってもいけない。この女を追いかけることは、けっこう危険なことだった。

だが、女の顔や、酔ったときのあの可愛らしい仕草に健吾は抗えない。
毎日考えてしまう。美女というのは、デメリットと天秤にかけられないのだ。

健吾は、女とデートする前に戻りたかった。
「手に入れられるか入れられないか」など意識しないで、綺麗な女を横で眺めているだけで十分だったあの頃に戻りたかった。だがそれはもう遅かった。女はそうやって、男の気を引いて養分にするのだ。その養分になった自分は、もう元には戻れないのだった。

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