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経済活動


私は、鈴木恵美という名前で、今年39になる。

2人の娘と池袋の小さいマンションに住んでいて、隣のマンションには大学生たちが住んでおり、毎晩騒がしい。

数日に一度はセックスの声が聞こえたりしてきて、娘たちにそれが聞こえていないだろうかと不安になって起きてしまうことがある。でも2人とももう高校二年生と大学一年生だから、まぁそんなもの聞いてもなんとも思わないかもしれない。

マンションの目の前には銭湯があって、離婚直後、本当にお金がなかった時は、ガスを止められることもあって、よく女3人で通ったものだ。

旦那は別れた後、すぐに死んだ。建設業に従事していた男で、金遣いはそれなりに荒かった。死んだのもそれまでの行いが悪かったんだと、晴々した気持ちになったことを覚えている。

旦那と別れ、死別したのが今から10年ほど前で、それまでずっと保険会社の営業補助として働いてきたが、コロナ渦のタイミングで部署が変わり、上長が代わり、ストレスがそれまでとは比べ物にならないほど蓄積されるようになった。

そのタイミングで、メンズエステのアルバイトを始めた。遊ぶ金が欲しかったのだ。

セックスは好きだったし、昔から色々な男とセックスしていたので、そこまで男の局部を触ったりすることに拒否反応はなかったが、高齢のお客さんであればあるほど厳しい。男も女も、若さというのは本当に貴重なことなんだと思うようになったもは、メンエスのバイトをきっかけにしている。

知り合いのバーで日本酒を飲みすぎて、「私は若い男としかしたくないのっ!」と大声で叫んだことがある。周りのお客さんも驚いていたし、何よりバーのマスターに出禁にされそうになって焦った。

でも、これは、実際そうなのだ。
私はメンエスで稼いだ金で、女性用風俗に行くようになった。
自分よりも15歳ぐらい若い男を買い、その中で疑似恋愛を繰り返している。
これは高齢のお客さんのそれを触った反動であることは間違いない。

じじいのお客さんからもらった数万円が、私を媒介として若い男に移動していく。
この現象はなんと名づけられるのだろうか。多分、「経済活動」というやつだろう。

頂き女子りりちゃんも、おんなじようなことをしていたと聞く。
私は犯罪的なことをしているのだろうか。
いやそれはないだろう。
私はむしろ法を遵守して、健全なことをしている。健全な経済活動をしているのだ。

今夜も隣のマンションでは大学生がセックスをしている。

娘たちは聞き耳を立てているだろうか。私が、隣の大学生と同じような年齢の男を買っていることを知ったら、娘たちはどんな顔をするだろうか。

そんなことを考えていると、また向かいの銭湯のことを思い出した。あの頃は大変だった。男を買う金なんてなかったし、別れても養育費をもらえない自分をこの世で最も不幸な人間だと思っていた。

今は違う。
メンエスで働いて、昼間も働いて、自分の力で2人の娘を育て、たまに若い男を買えるほどの経済活動ができるようになった。私はあのころに比べて、ずっと幸せなのだ。

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