見出し画像

日常

息子のバレーボールを観戦していると、ママ友の一人が話しかけてきた。

「Aさんバレーとかやってたんですか。ほら、背が高いから」

バレーなんてやったことがなかった。
私は生まれつき背が高いだけだ。

コートに目をやる。息子が飛び跳ねている。
もう小学6年生だ。

刈り上げた髪型が眩しかった。

きれいな顔に生まれてきてくれて本当によかった。見るたびに思う。

バレーボールの試合が終わると、ママ友と軽く挨拶をしてから家に帰った。

「よかったね! 勝てたじゃん。ぜったい勝てるってママ言ってたでしょ」

助手席に座る長男にそう話しかけた。

「うん、よかった」

息子は、少し反抗期に入っている。

「ねぇ、今日家に帰ったらゲームしよう」後ろに乗っている長女が言う。

まだ8歳。ついこの間ベビーシートを外したような気がする。

「うん、しようね。お兄ちゃんは勉強しなきゃだから、そしたらママとしようね」

家に着くと、旦那が起きていた。

パジャマを履いている。
今日は土曜日だから、ずっとこの服で過ごすつもりだろう。

「どうだった、勝ったか?」
「うん、勝ったよ」
「そうか。よかったな」

旦那の問いかけにそうとだけ返して長男は自分の部屋に戻っていった。

バレーボールで勝った時ぐらいもう少し話してくれてもいいのにと思うが、私も反抗期が長かったのでよく分かる。

午前中から4時間以上続いたバレーボール観戦に興奮し、家に帰って安心した娘は、そのままリビングのソファで眠ってしまった。

旦那は自分の部屋に戻った。おそらくスマホをじっているか、寝ているかのどちらかだ。

私は食卓に座りながら、長男の部屋に響かない程度の音量になっているテレビをなんとなく眺めていた。

いつのまにか、昨日のセックスを思い出していた。

初めてした子だった。

33歳の男の子。出会いはマッチングアプリで、昨日で二度目のデートだった。一生懸命私に私に「好き」と言ってくれた。デートも、セックスも不慣れなところはあったけど、とにかく一生懸命な子だった。バックの時に、無理やり乳首を舐めてきたのには驚いた。そんな人、初めてだった。そのことを思い出して、私はひとりで笑った。

私には固定のセックスフレンドが2人いるけれど、たまには他の相手ともしてみている。

「ねぇ、満たされてないんじゃない」

この間、裕子にそう言われた。裕子は会社の同僚であり、もはや親友と言っていい。もう15年以上の付き合いだった。私は小さいコンサルティング会社で、デジタルマーケティングのコンサルティングを専門としているが、裕子は私の全クライアントの営業担当なので、ほとんどパートナーみたいなものだ。

裕子は仕事ができるけど、でも、私が満たされていないっていうのは、間違っていると思う。

私は結婚して、仕事をして、子育てをしている。家族を愛している。
旦那ともセックスレスなわけではない。頻度は少ないけど、たまにする。

「私は満たされている」
意識的に口にしてみたが、口にすると、なんだかしっくりこなかった。

満たされているってそもそもなんだろう。
私は、満たされているんだっけ。

なんで裕子はそんな、よく分からない言葉を平気で使ったんだろう。
口から出まかせみたいに。
人のことを諭すように。

「あ、営業マンだからか」

そう呟いた時、「え、なにー?」と自室から旦那が話しかけてきた。

「なんでもない」と返した。

静かな午後。
娘の寝息がテレビの音に混じっている。それ以外は、何も聞こえない。
これが私の日常。

心は穏やかだし、この世界に幸せと感謝を感じることができる。

でも、あと数時間したら、出かける準備をしなければならない。
今日は、また別の男に会いに行く。

着ていく服はもう決めている。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?