駆け引き
私は1人の女に固執していた。
固執しているというか、どうかんがえても変な女で、こちらのことを好きだと言ったり、早く会いたいと言ったり、こちらが早く会いたいと返すと、私はそんなふうなことを言われる立場にはないというような押し問答を返したりしてきた。
明らかに、人を惑わす女だった。だが、それをやっても許されるぐらいの美しい女でもあった。
そして私もその女も既婚者であった。ある友人にそのことを話したら「既婚者同士がデートしたり会いたいとか言い合ったり、いい回答が来なかったから落ち込んだりするなど、気持ち悪いにもほどがある。両方とても気持ち悪い」と返信をもらったことがある。
それは確かに正しい。わかっているのだが、女の線の細い体や、キスした感触などがどうしても忘れられない。まだセックスはしていない。セックスは、したくなかった。セックスからしか始まらないのはわかっているが、このヤキモキした中学生や高校生のような状況を、40代となる私自身楽しんでいたとも言える。
相手もそうなのだろうか。女のことはよくわからない。
非常に美しい女だから、男に困ることはないだろう。デートもよくしているらしい。セックスする相手も多いだろう。しかし、私はどうしてもその1人にはなりたくなかったのである。その女の、特別な1人になりたかった。この気持ちは、競争意識なのだろうか。確実に自己満足であり、仮にその女が本気になってきたら、私は引くだろう。要は、これは、戦いなのであった。
明らかにこちらの分が悪い状況が続いているが、まだ負けたわけではなかった。
セックスをしたらこの戦いは終わってしまうような気がしてもいたが、セックスからしか始まらないような気もしていた。
セックスに持ち込むにはどうしたらいいだろうと中学生のように考える自分が毎日楽しくもあったし、苦しくもあったし、馬鹿らしくもあった。そして、美しい女とそうしたことができる自分というものを誇らしくもあった。
恋というのは、幾つになってもするものなのだと思う。
きっと老人ホームに入っても、似たような駆け引きを、男と女はしていることだろう。
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