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熟成を考える|2021年8月に読んだ本

最近、やりたいことを「寝かす」ようにしている。たくさんやりたいことはあるけど、理想と現実のギャップに打ちひしがれて、結局何もする気になれない状態が続いていた。「後回し」というと、良くないことのようなイメージがあったけど、アイデアを「熟成させる」と捉えると、不思議と無力感は消えたようだ。頭の中だけだと忘れるから、メモに使っているNotionにリストアップして、定期的に実行できるようにした。

2021年8月に読んだ本の中で、おすすめしたい本を選んでみる。
誰かの選書のヒントになれば嬉しい。

お探し物は図書館まで|青山美智子

人の悩みを解決する方法がアドバイスとは限らない。むしろ、直接的なアドバイスは、受け取り手にとって「的を得ていない」と感じることもある。小さな図書館を訪れた悩める人々はレファレンスを受けるが、司書の選書は調べたいこととは一見関係なさそうな本も混ざっている。さらに謎の本の付録もくれる。半信半疑ながらも相談者は本を読み、じわじわと自分自身で気付きを得ていく。過去に熟成したことが本をきっかけに蘇る。人生、仕事、そして本当の探し物について、思わず考え始めてしまう。

ナリワイをつくる|伊藤洋志

「生業」とは暮らしを成り立たせるための活動。仕事と暮らしは繋がっていて、複数の"ナリワイ"で生計を立てていく。単なるキラキラした新しい働き方ではなく、小さなことから始めて複数の仕事を同時進行させる方法は、地に足が着いている。熟成させたナリワイがほかのナリワイと共鳴して、芽が出ることもあるし、別のアイデアの元になることもある。非バトルタイプが本来の意味での生業について考えられる本。

カメラじゃなくて、写真の話をしよう|嵐田大志

写真が好きだという人に「カメラなに使ってるの?」と言われると、つい身構えてしまう。僕はカメラの機材やテクニックよりも、写真や目の前のことについて話したい。タイトルにバチッと心を掴まれてしまった。機材や知識が先行してしまい、Webにはエモい写真の撮り方やレタッチ方法のレクチャーばかり。その結果、インスタは似たような写真で溢れてる。人の写真に興味が持てなくなってきた。でも、写真のスタンスは人それぞれ違う。機材が好きな人も、承認欲求のために撮っている人もいる。僕だってそういう側面もある。それでも僕は写真自体が好きだ。だから、フォトグラファーの写真のスタンスを知られるのはとても楽しい。表面には見えにくくて、泡沫のように消えていく部分をしっかり見ていきたいし、自分も出していきたい。

宇宙に行くことは地球を知ること|野口聡一・矢野顕子

宇宙は遠い存在。子どもが抱く憧れか、仕事で関わるNASAの人たちしか関係ない。そんな固定概念をぶち壊す「純粋な好奇心」を見た。人が星空や月食に目を奪われてしまうのはなぜだろう。みんなが宇宙への想いに蓋をして気付かないふりをしている間に、矢野さんは純粋に宇宙への興味を表現していた。僕だって宇宙や地球の深海、未踏の地の謎を知ってみたい。見てみたい。今は具体的なアイデアはないけど、この想いはいずれ熟成して、蓋を開ける日が来るかもしれないと思えた。

ぼくは蒸留家になることにした|江口宏志

書店の経営から蒸留の道に転換した著者が綴ったエッセイには、仕事をしていく上で誰しもが抱える違和感が言語化されていた。試したからこそ分かる仕掛け続けることへの疲労。広いフィールドで情報を探した結果、そのうちのどれかがいずれ自分に戻ってきて進展するかもしれない。効率は良くないかもしれないが、地図が徐々に完成する感じが楽しい。熟成が進んだら、ぼくは何になることにするんだろう。

ライオンのおやつ|小川糸

切ない気分になりたい。でも、現実で味わうようなモヤモヤした苦しさまでは追体験したくない。余命宣告を受けて辿り着いたホスピスでの出来事は、切ないテーマでもどこか心を温かくさせる。ハッピーエンドも勧善懲悪も全然リアルじゃないけれども、挫折ばかりの話は読みたくない気分のときだってある。僕が死ぬときには熟成しっぱなしのことが大半であるとは思う。だけどそれはそれで良いのかもな。

思えば遠くにオブスクラ|靴下ぬぎ子

声に出して読みたいタイトル。思えば遠くに。海外に限らず、自分が生まれた土地や長く住んだ場所を離れて暮らすと、ふいにそう思うことがある。Googleマップを広域にして地元との距離を測ってみたりして。憧れの場所や海外での暮らしは実践してみると、その先にあるのはただの日常だ。キラキラした生活も驚きも何もない。泥臭くて人には見せられない毎日である。そんなときに「思えば遠くに」と過去の居場所に思いを馳せることは、新鮮さを取り戻すきっかけとなる。

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昔からゲームをするなら、必ずRPGだった。キャラクターをレベルアップさせてクエストをこなし、アイテムを集めていき、まだ見ぬ世界を冒険していく。この一連の流れが僕を熱狂させる。特に集めたアイテムが後々必要になったり、アイテムのお陰で武器を強くできたり、熟成させて収穫したときの喜びを楽しんでいた。アイデアの熟成は、その感覚と似ているのかもしれない。ラストエリクサーは絶対に使えないタイプ!


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