【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 前編 20
「出航の準備は終わったのか?」
「ああ、万事。後は命令待ちだ。あっ、お前の兵士たちが来るとなれば、もう2、3隻必要となるな」
「いや、心配無用。我々の船は既に準備できている。こちらも出航命令待ちだ」
「そうか。ところで、如何だ、今夜あたり?」
「もとより、そのつもりだ。そのために、ここまで来たのだからな」
「何だ、将軍に対する挨拶ではなかったのか?」
「それは、あくまでついでだ」
2人は、また顔を見合わせて笑った。
やはり、旧友は良いものである ―― 何でも話し合える。
「秦殿!」
遠くから聞こえてきた声は、もう一人の将軍、檳榔である。
「おや、狭井殿だ。何をあんなに慌てているのだ?」
檳榔は、馬を駆けてやって来る。
「秦殿、大変じゃ。おっ、これは大伴殿、久しぶりです」
大国は、檳榔に頭を下げた。
「何が、大変なのですか、狭井殿?」
「おお、そうよ。豊璋王子の帰還だが、中止となり申した。」
田来津と大国は、顔を見合わせた。
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