ある男|5−4|平野啓一郎
遼を診察した医師は、すぐに大きな病院で診てもらった方がいいと紹介状を書いた。脳腫瘍の疑いを告げられたのは、この時が初めてだった。
翌週、MRI検査の結果、遼は大脳基底核に脳腫瘍が出来ていて、「典型的なジャーミノーマ」と診断された。おねしょも喉の渇きも、それに伴う尿崩症だという説明だった。
里枝は、この最初の診断の後、ほとんど縋るようにしてその「治る」という言葉を信じてしまったことを、今に至るまで後悔していた。尤も、医師も最初はジャーミノーマという診断に自信を持っていて、あ