ある男|23−2|平野啓一郎
声変わりもして、近頃では、うっすらと髭も生えてきたようで、死んだ父親の電気カミソリをどこからか引っ張り出してきては、見よう見まねで使ってみたりしていた。DNA鑑定でも、その電気カミソリの中に残っていた髭が役に立ったのだった。
自分に白髪が増えるはずだと、里枝は息子のからだの成長を見ながら、つくづく思った。
城戸の調査結果を知らせるべきかどうかは悩んだが、既に偽名であることは伝えていたので、ある程度は話すより他はなかった。
それに、里枝は、他の十四歳の男の子ならともかく、