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掌編小説「停留所」

おかしい。絶対おかしい。


駅行きのバスが来ない。次々と番号そして漢字二文字の行き先が書かれたバスはやってくるのだが、○○駅行きというバスがやってこないのだ。


事前に調べなかった自分が悪いのだが、ここに来る前は自分に妙な自信があった。停留所には路線図がだいたい貼ってあるものだが、古くなっている上に風雨に晒されていたせいか、薄ぼんやりで全く読めなくなっていた。ここで鋭い人はスマホを思い浮かべたであろう。しかしあいにく自宅へ置き忘れてしまった。


停留所付近にいた近所に住んでいるらしき人に話を聞いてみたが、ボソボソと何を言っているのかよくわからない。道路の反対側のバス停ではないのか、というような提案がなんとか聞き取れたので、道路を渡ってみることにした。数分経ち、十数分経ち、車はバンバン通り過ぎるのだが、○○駅行きのバスはついにやってこなかった。教えてくれた人にクレームを言おうとしたが、すでにどこかへと消えていた。


途方に暮れた私は、ここに来た行きのバスの記憶を辿りながら、駅へ続く道だろう方向へ歩くことにした。タクシーを呼べば一発で済んだ話だったのだが、パニック状態だったため、その発想はこの時まったくなかった。


峠を登り下りをしかなり足が疲れてきたので、徒歩は諦めてもう一度バス利用を試みることにした。停留所を発見したのだが、とても奇遇な事に顔馴染みの知り合いが数人いたので、挨拶をした後バスが来るまでと、彼らと会話を楽しむことにした。


一時間経っただろうか。バスは来なかった。


プラスチックでしっかり保護された停留所の時刻表を見てみると、一時間に一本来るはずなのだが、時間になってもバスが全然来ないのだ。渋滞にハマったのか、突発的な事故が巻き込まれたのか、それとも道路工事の迂回でそもそもここに通ることはないのか。私はここでようやくタクシーを呼ぼうと思いついたのだが、先ほどの停留所とは異なり、近くに家らしきものはなく、知人のスマホを使おうにも電波はここまで届いていないようだった。


もうあたりは完全に真っ暗となってしまった。


見知らぬ土地なんだから、もっと事前に調べるべきだった。何度も心の中で反省したが後悔先に立たずである。のちにわかったことだが、我々が待っていた停留所は労働者向けのバスで土日は運休だったらしい。


仕方なくまた歩くことにした。辺りは真っ暗で不安が募る一方だったが、数キロ歩いたあたりで明かりが見えてきた。すでに棒となっていた足は完全復活果たし、自然と早歩きになっていた。線路も見えてきたとき、私は少しの涙を流しつつ大きな安堵のため息をついた。


電車はまだ走っているだろうか。最悪乗れなくても駅前ならきっとホテルはあるだろうしそこで休むことが出来る。駅まで走りたかったが復活した足は再び限界近くとなっていた。


すんなりバスに乗れていれば記憶の片隅にも残らなかったであろう駅が、いま眼の前にある。待ちぼうけを食らった最初の停留所から5時間以上経過していた。あぁ早く家に帰ってぐっすり眠りたい。


ザーッ


突然の異音に驚き急いで目を開ける。どうやら寝ぼけてTVのリモコンボタンを押したようだ。ここで寝落ちだと思わないでほしい。あまりにも疲れた出来事だったので記憶をなくしていたのだが、夢で過去にあった出来事を思い出したのだ。


やはり旅は思いつきで行くもんじゃないな。この話は漢字圏の国で起きた出来事で、そこは海外のバス停留所だったというのが真相であり、オチである。


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