見出し画像

宗谷の旅ーオロロン街道から羊の森へ

梅雨空が広がり始めた羽田、JALのセールを利用して旭川へ飛ぶ。
伊勢丹ショップの奥のカフェがなかなかいい、Traveller’s Coffee。
大きな窓の向こうには飛行機とその周りで働く人達、遠くには国際線ターミナル、旅への期待が高まる時。

今回の目的は二つ。一つはオロロン街道を完結させること。
3年前、コロナが始まった頃、留萌から街道を北上したが、都合で途中で天塩で引き返した。因みに”オロロン街道(ライン)”というのは、小樽~稚内の380㎞を日本海に沿って走る道のことを言う。
素晴らしい景観だが、冬は、海からのしぶきが凍り、車で走るのはかなり厳しいらしい。オロロンというのは、街道の沖合天売島にいる絶滅危惧種の鳥、ウミガラスのこと。

もう一つの目的は、オロロン街道から内陸の方へ入った、美深町で羊を見ること。
ここは村上春樹の「羊をめぐる冒険」(1982)のモチーフとなったのではないかと噂される(確証はない)町。前回は5月に行ったのだが、まだ牧草地は雪で覆われ、羊の姿はなく、ジンギスカンだけ食べて帰ってきた。

飛行機はどんどん北上し、三沢辺りで、小川原湖が良く見え、下北半島から北海道へ渡る、旭川空港までもうすぐ、降下しながら本州とは違う光景が広がる。

旭川空港でランチタイム。小さな空港だが、ここのフードコートはなかなか充実。旭川ラーメンが2店(山頭火・梅光軒)、幌加内そば、海鮮、農園スパイシーカレー、鉄板焼き、定食屋、など。とりあえず、ラーメンで。

美瑛を少し散策した後に、JR富良野線で、旭川駅へ。
南口の広場から忠別川を超えて見る大雪山の雄大な風景はやはりいいなぁ。川べりの遊歩道を馬で行く人も見えた。

この駅(内藤廣設計)は日本で最も美しい駅の一つ、少なくとも主要な駅としては最高ではないだろうか。北の厳しい自然から人や鉄道を守る強固さと、自然や木のぬくもりとの調和。川の流れやその先の山の風景と建物とのバランス。
構内の大きな空間、ちりばめられた木のベンチやデスク。最近のJRの駅とは一線を画する。乗降数は少ないし、お洒落でにぎやかな商業施設はないが、非常に気持ちの良い駅だ。

旭川駅南口・忠別川を超え旭岳を望む


宗谷本線で今回のオロロン街道の起点、稚内を目指す。

宗谷本線の減便(と廃駅)は進んでいる。旭川~稚内は特急はサロベツ(宗谷)が朝と昼、夜8時に3本だけ。普通電車では稚内までの直通は朝の一本のみで、6時間。稚内は列車では行くのがもはや難しい。
JR北海道の廃線・廃駅の話は時折ニュースになるが、この広大な土地を民間企業の鉄道でカバーするのは非常に難しい、JR民営化の負の側面。

昼の特急は逃したので、近くの居酒屋で地酒(この辺りの代表的な銘柄・男山・国稀)で地の物を食べながら時間をつぶす。
旭川20:06~南稚内23:42 サロベツ3号。


車内は10人弱。名寄を過ぎると、外はもう真っ暗。街がないというより灯りがない。ぼーっとしていると、列車の進んでいる方向がわからなくなる。不思議な感覚。

幌延・豊富あたりから少し灯りが回復、降りる人も数人、そしてまた真っ暗な鉄路に戻る。南稚内の駅前のホテル(温泉)に、日付が変わる前に滑り込む。
 
夏至にも近く、夜明けが早い。とりあえず大浴場へ、意外と立派(ナトリウム泉)日本の最北の温泉はノシャップ岬近くの「稚内温泉童夢」だと聞くが、ここが2番目のかな。

稚内駅近くで、レンタカーを借りて、いよいよオロロン街道へ出発準備。

最果ての駅、稚内駅に初めて来たのは大学生の頃。今日で何回目だろう。
ホームには、東京まで何キロ、指宿まで何キロとかの看板がホームに並ぶ。

まだ時間も早いので、近くの公営プール(水夢館)へ行って、ひと泳ぎ。
旅行中は身体がなまりがちだし、公営プールでは地元の人と小さな交流もあったりする。
北海道だと旭川・根室・滝川などの公営プールに行ったかな。ここのプールはなかなかきれいな温水プール。プール前の駐車場で蝦夷鹿がのんびり草食べてる、不思議。


いよいよ、オロロン街道の起点ノシャップ岬へ、稚内駅からそう遠くない。

岬、風が強い、人もあまりいない。ここから、国道254号・106号を経て、オロロン街道を南下していく。
岬のそばの丘(台地)の上には「自衛隊稚内分屯地」。ここは陸海空の自衛隊が共存する珍しい基地らしい。主としてレーダー基地か。利尻島から稚内へ航路で来ると、このレーダーは北の守りを感じさせる迫力がある。

走るにつれ段々建物も少なくなり、15分も走ると、もう原野と海の間を走る感じ。
この辺りは行政区としては、豊富町から天塩町なんだが、日本で一番人口密度低い地域なのでは。というか、熊とか鹿の方が多いだろう。特に鹿が突然道に出てくる(そしてすぐには逃げない)のは怖い。
事故の頻度という意味では鹿の方が熊より怖いかも。

抜海の港の近くに小さな岬、小さな祠がある。今日は雨模様なので寒々しいが、天気がいいと利尻島を見ながら、海の恵みと安全を祈るのだろう。

引き続き海沿いを南へ走る。風力発電の塔が天塩に近づくにつれ、沢山見えてくる。遠くから見るとまるで巨人みたいで雰囲気がある、しかし近くで見ると単なる機械で不快な音もする。
このエリアでは風力発電の電気をどううまく消費地に送るか、いろいろ事業化が進んでいるらしい

抜海・岬の祠


利尻富士が沖合に見えるスポットなのだが、天気が悪く全く見えない、残念。はしり続けると、天塩川河口に着いた。
「道の駅天塩」で休憩。ここが前回留萌から北上してきた所、ノシャップ岬から約70㎞。これでオロロン街道完結としよう!

友人との待ち合わせもあり、オロロン街道から離れ、国道119号で内陸へ進む。佐久辺りで、天塩川とまた出会い、音威子府へ。
オトイネップ、記憶に残る名前。この道は意外と交通量多く、北海道らしくどの車も飛ばす(平均速度で70㎞位はあるのでは)。

天塩川は北見山地の天塩岳から日本海へ流れ込むまで256kmと結構長い(日本4位)。今走っている下流部は蛇行を繰り返しながら、大自然の中をゆったり流れる。好きな川。

音威子府から、「道の駅美深」を過ぎ、美深の小学校や、廃駅となった紋穂内の駅あたりを過ぎる。ここには以前泊まった「青い星通信社」というとても素敵な宿がある。
美深の市街へ。美深駅も風情がある、中には宗谷本線の名残の品や、村上春樹関連の展示。今日は駅前の民宿。
今夜の楽しみは、昔の赤レンガ倉庫(馬鈴薯の)を改造した最北のブルワリーレストラン、「BSB」。いわゆる地ビールの店なのだが、白樺樹液を加えたものをはじめ様々なクラフトビールが本当においしい。ワインのように味わえる、地元産の食材を使った料理とともに。
ここで友人と落ち合う、一人旅から二人旅へ。

翌朝、ここからオホーツク海まで2時間あまり、せっかくなので、足を延ばしてみる。
美深の外れ仁宇布の集落を超えて、オホーツクの海沿い、雄武町を目指す。因みに仁宇布の小中学校は山村留学をやっているらしい、とてもきれいな校舎だ。小学生が歩いている。
熊大丈夫か・・。時折、道路の端に「熊注意」の標識が出てくる。事前に美深町役場のクマ情報をチェックしてきたのだが、この辺りで目撃情報があったかも。
仁宇布には、旧美幸線の跡地を利用した、トロッコ列車がある。今日は雨で寂しいが、観光スポットだ。昔のレールの廃材で作った文鎮を買う、中々いい。車庫のおじさんに「熊はどうですか」と尋ねると、微笑むだけ。

北海道の人ももちろん熊は怖いだろうし、様々な対策が講じられているのだが、本州から来た我々とは少し、その怖い感覚が違うのかもしれないと思う時がある。

雄武の街でオホーツク海を眺めながら待望のうに丼を食べる、幸せ。北海道の中でも雄武やその北の枝幸と行った町は、ホタテやウニなどの漁業で比較的裕福な町ときいたことがあるが、確かに豊かな感じがする。
 

うに丼を食べて、また美深町へ戻る。
仁宇布の先の「松山農場」が今日の宿。雨だからいないかなぁと心配していたら、おー羊がいるではないか。宿の人に寄ると、この時期はずーっと放牧しているとのこと。雨が降ると、勝手に木の陰とかに移動するから。

松山農場 ファームイントント


見たかった景色。
宿の前の草原、羊、その向こうには広大な蕎麦畑がひろがる。宿には春樹本や羊関係の本が沢山。夕食前に羊を見に放牧場へ、羊は放牧場の端にいて、写真はあまり取れない。
夕食はジンギスカン、美味しい(悪いが)。白樺ビールとワイン。

翌朝、6時過ぎに目が覚める。窓から見ると羊が随分宿の近くにきている。カメラを抱え、静かに近寄る。目があったりした。
でも段々と、嫌だったのか、羊は離れていく、この離れ方が、微妙で、遠慮深くていい。

名寄駅で、レンタカーを返却、旭川へ戻る。特急サロベツは鹿とぶつかり遅延している。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?