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【前編】ある日いきなりサンリオのダンサーになろうとした私


大学を卒業し、さて何をして生きていこうかと迷走期に入っていた私は、少しでも興味が湧いたものを手当たり次第調べたり、やりたいことはないかと考えていた。
調べていく中で、いやこれは単純に趣味として好きなだけだなと感じたものや、本当に最初のインスピレーションでひっかかっただけで実はそんなに興味がないかもと思うものも見えてきた。


ひとしきりそんな迷走をしていた中で、ピカイチで一瞬の閃きでしかなかった失敗談がある。

それは、「サンリオピューロランドのダンサー」だ。

ダンスの経験なんて1ミクロンもない。
運動神経もそんなによくない。
加えて言うと、今までの人生で子供の頃を含めても、サンリオのキャラクターにハマったこともなかった私。
ピューロランドの存在も知らず、ディズニーランドすら数回しか行ったことがなかった。テーマパークや夢の国、メルヘンな世界にほぼ無縁の人生だったと言っていい。
キャラクターものも、食パンマンさまを敬愛していた2〜3才以降、特別"推し"がいた記憶もあまりない。


なぜそんな突拍子もないことを思いついたかというと、ある日いきなり私のメルヘン心が爆発したわけではなく、たまたま乗った小田急線の駅構内に貼ってあった広告が目に止まったのだった。
それはサンリオピューロランドの「キャラクター出演者募集」のポスターだった。
サンリオピューロランドは、多摩センター駅が最寄りである。

"未経験者可。身長制限有り。"


きっとこの身長制限というのは、キャラクターの中に入るには身長が高すぎると入れないに違いない。そう思った私。
募集要項に書いてあったその文字を見て、人生迷走中の私は何血迷ったのか
これは私を呼んでいるのでは...?」と思ってしまったのだ。
今思い返しても完全に迷走していることがわかる。

その当時の私の心境としては、想像するに、小さい頃からダンスやパフォーマンスなどをやってきている人ではなくてもエンターテイメントの仕事ができるのかという驚きと、今まで幼い頃から身長制限によりやれないことは多かったものの、自分の小さい身長が長所になるという点が嬉しかったのかもしれない。

小学生の頃母に「私は小さいし痩せているからジョッキーになれるんじゃないか。馬そのへんにいるし、いつも見てるからこわくないし」という意味不明な理由で、騎手への一瞬の憧れを相談した時からなんら成長していない。
もちろん母には「小柄で馬を見慣れてるくらいで誰でもなれるような仕事じゃないんだよ」と至極真っ当なアドバイスをされたことを覚えている。
もちろん中学校を卒業する頃にはそんなことも忘れ、私は普通の高校に進学する。


そんなわけで、小学生のあの頃から10年は経っているはずなのに、私はあいかわらず浅はかな考えで、ものは試しだとピューロランドに履歴書を送ってみたのだった。
とは言っても、やはり履歴書にはダンスの経験を書く項目がある。
間口を広げて募集しているよ!という謳い文句なだけで、きっと私のようなにわか勢は書類選考で落とされるのであろうと思っていた。


思っていたのだが、数週間後、私は郵便物を見てビビり倒すことになる。
どういうわけか、書類選考が通ってしまったのだ。

やはり私はあのキャラクターたちの中に入る人材として呼ばれている...?

そんな勘違いをしつつも、一番びっくりしているのは私自身だ。
一番も何も友人などにこれを話そうもんなら、なぜそんな血迷った就職活動をしているのかと爆笑されること請け合いなのでこのことは私以外誰も知らないのだが。
「え...マジ?」と次なるダンス審査のお知らせを読みながら、私はガクガクと震える。

そんなつもりはなかったが、きっと他の応募者からしたら私なんて完全なる冷やかし客であろう。
もし純然たるダンスへの、サンリオへの情熱がありながら、書類選考で落ちてしまった人がいたとしたらかなり申し訳ない。
しかしもうここまできたらと、記念受験のような、きっとこの先見ることがないであろう別世界への社会見学のような気持ちで、私は2次試験を受けることにした。


2次試験のお知らせには、「当日ダンス審査がありますので動きやすい服装でお越し下さい」と書いてある。
まるで運動に縁のなかった私は、本当にただただ動きやすいだけのスウェットに近いような服を持って、試験会場へ向かった。
田舎のヤンキーがコンビニに行くようなユニフォームである。
ヤンキーコーデを隠し持ちつつ、見当違いの心遣いだが、一応サンリオ好きですよ感が演出できるような、自分の手持ちの服の中で一番可愛らしいワンピースなどを着て、会場に向かったような気がする。
どこまでも浅はかである。

そして初めて訪れたピューロランド。
こんなに憂鬱な気持ちでテーマパークの前に立ったのは、人生初めてかもしれない。
ピューロ側だって、こんな招かれざる客が来たのは初めてであろう。
こんなことなら、こうなる前に一度ピューロランドに訪れて、サンリオの世界観をもっと勉強しておいた方がよかったかも...なんて受験対策にもならない謎の考えを巡らせる。


そして私は、もはや可愛いを通り越して恐怖さえ覚えるような、立ちはだかるピンクの城壁を前に、一度深呼吸をして試験会場へ入っていったのだった。


<つづく>



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