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冬の匂い、バイクの音、君のポケット。


冬の気配を感じる肌寒い風と共に、ガソリンの匂いを嗅ぐと、あの頃の夜を思い出す。

3回だけ鳴って切れる着信音。
電話は取らずにそのまま家を出る。
これは到着の合図。


階段を降りていくと、重低音の響く単気筒のバイクが家の横に止まっている。

「住宅街だからエンジン切ってって言ったじゃん」

「いや、今日寒くて。一回停めるとバッテリー上がっちゃいそうでさ」

相槌を打つ代わりにそそくさと後ろにまたがる。
すぐにバイクは走り出した。


歩くよりもずっと早く風を切るバイクに乗ると、体感はいつもよりずっと冷たくて、腰に回していた手を暖かそうな上着のポケットの中に入れる。
平たいお腹が少しくすぐったそうに跳ねた。

フラットシートのギリギリまで前に寄って、隙間に風が入らないようにぴったりと背中にくっつく。
そのまま顔を横にして、背中に耳を当ててみるも、外の音とヘルメットのせいでさすがに心臓の音は聞こえない。
鼓動のようにバイクが一定間隔で音を刻む。


「もしかして、寝てる?ちゃんと掴まっててよ?振り落としちゃうよ」

信号で止まった時に頭を寄せてそう言った後、ポケットの上からぽんぽんと手を叩かれる。


今、この気持ちのまま時が止まるなら、そのままここに放り出されてしまうのもいいかもな。
なんて思ってもみなかったことをふと考えた自分にちょっと笑う。返事をする代わりにお腹に回した手をきゅっと締め、ゆっくりと目を閉じた。

ぐるっと首に巻いたマフラーの上、無防備な頬を冷たい風が走っていく。

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