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洞窟の声は届かない。 〜あるコウモリの話〜

イソップ寓話「卑怯なコウモリ」
むかしむかし、獣と鳥が戦争をしていました。
その様子を見たコウモリは獣が優勢になると「私はネズミのような体ですから獣の仲間です」と言い、鳥が優勢になると「私には羽があるから鳥の仲間です」と言って双方に近づきました。
やがて獣と鳥が和解し戦争が終わると、どちらにもいい顔をしたコウモリは、裏切り者としてどちらからも追いやられ、暗い洞窟の中で身を潜めるようになりました。


これが、私たちの知っている卑怯なコウモリの話。
そしてこれは、あるコウモリの話。

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どうしてこんなことになってしまったんだろう。
誰もいない、ひっそりとした一人きりの空間で毎日考える。

遠くの「外」からは楽しげな声が飛び交っているけれど、僕の声はそこには届かない。
その楽しげな声を聞くのが悲しくなってしまって、いつしか僕は耳を塞ぐかのように彼らが活動する時間に眠りにつき、声が聞こえなくなると目を覚まして行動するようになった。


あの頃、誰よりも平和を願っていたのは僕のはずだった。
みんなで一緒に、争いなんてせずに仲良く過ごすことができれば一番いいじゃないかと、僕は精一杯訴えかけた。

みんなを取りまとめたり大勢の前に立って意見を言うなんてそんな立派なことはできないし、臆病で、恥ずかしがり屋で、とてもじゃないけど大きな声なんて出せない。

でも、だからこそ僕は僕にできる形でみんなに寄り添おうと思った。
たくさんの前では言えないからこそ、きちんと直接会いに行って訴えたんだ。

それでも、声は届かなかった。
あの時、僕にもっと勇気や自信があったら、みんなの前で大きな声で訴えることができたら、今とはもっと違う未来があったんだろうか。


みんなが争い、傷つけ合っていた頃。
僕は双方に寄り添い、隣で手を取った。
あの時僕がいつ、一方を傷つけるようなことや、悪く言うようなことを言っただろうか。むしろ言っていたのは彼らで、僕はそうじゃないだろうと説得して回っていた。

「あいつら、上から物を言って見下しやがって。高飛車なんだよ。俺らは地に足つけてがむしゃらに生きてるのに。あんな奴らとはわかり合いたくもない。お前は俺たちの気持ちをわかってくれるよな?」

「うんうん、大変だったね。でもさ、ちょっと聞いてくれないかな?みんなでうまくやっていく方法を探すのはどうだろう?協力すればできると思うんだ。」

「そんな綺麗事、通じるわけないだろう。いいから俺たちを信じるんだ。お前は仲間なんだから。そうだろ?いいか、絶対に裏切るなよ。」


彼らはこんな調子で全く聞く耳を持ってくれない。
それならばと、もう一方にも話をしに行く。


「あいつらなんて毛むくじゃらで偉そうで、野蛮な奴らだ。俺たちの方が優雅だし美しい。なぁそうだろう?お前は俺たちの味方だよな?」

「うん、僕は君たちの味方だし、君たちが好きだよ。でもね、聞いてほしいんだ。どうしてそんなに向こうを嫌う必要がある?それぞれ違う個性があるから、助け合える。そうやってみんなで一緒に生きていけばいいじゃないか。」

「いや、だって俺たちはあいつらっていう敵がいるからこそ、こうやって団結してやってこれたんだ。今更仲良くするなんてできない。それに俺たちだけ生き残った方が、きっといい暮らしができるだろ?」

「どうしてそうやって損得で考えるんだ。みんなで協力しようよ。」

「大丈夫、大丈夫。お前は俺たちの味方ってもうわかったから。こっちに入れてやるよ。」


一向にお互いを認め合わず、いがみ合いは終わらない。
どうしても、彼らは「敵」が欲しいらしかった。
仲間をまとめるために、自分たちの理想の世界にたどり着くために、共通の「悪」とする対象がいることが大事だと信じて疑わない。

僕の言っていることは理想論なんだろうか。
彼らの言うように、みんなで手を取り合うことは本当にできないのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。

どんな見た目でも、種族が違っても、それぞれを尊重し合えたらもっともっと良い世界になる。
僕はそう、信じている。



何度も何度も、彼らのもとに通った。
その間にも状況はますます悪化していく。
なくなっていく体力、失われていく仲間、争ってばかりの地は荒れ、生きる上で必要なものもどんどんなくなっていった。
もう、みんながボロボロだった。


しかし、それでもなかなか変わらなかった彼らだったが、ある日を境にそれが大きく、変わった。

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