#恋愛
泣いたって始まらないのに8
「ねぇ、ちょっと飲もうかぁ?」
由美は気まずい雰囲気を変えようと少し戯けた調子で誘った。
「いいですねぇ、ちょっとでいいんですか? 笹山さんは?」
大和は、由美がアルコールに強い事を事務所の人間から聞いて知っていたのだ。
由美は一瞬驚いたが、
「私強いんで、ペースについて来られるかな?」
と胸を叩いて見せた。
大和はその仕草が可愛くて、思わず目を細めて笑ってしまった。
そんな大和の様子には気がつ
泣いたって始まらないのに6
大和は静かな声で話し始めた。
「僕一目惚れなんです。バイト初日にです。短髪、細見、笑顔が可愛い、優しい声。まさかまさかでした。運命だって思いました。大袈裟じゃないんです! いつも笹山さんを見てました。見てるだけで嬉しくなっちゃって。でもある時気づいたんです。この人笑えないんだって。いつも心が泣いてるんだって。そしたら、もうどうしようもなく苦しくなって、僕がなんとしたいって、言う気持ちがデカくなっ
泣いたって始まらないのに5
張り詰めた空気の中、ほぼ同時に食べ終えたふたり。
「ご馳走さまでした」
と大和が小さく呟き、ふたりの膳を入口近くに置いた。
「あっ 有難う。美味しかった?」
大和は笑顔で、
「とっても美味かったです。美味しいもの食べるって幸せです」
「本当! 幸せ感じるわぁ」
由美も自然に頬が緩んだ。
「お茶飲む?」
「はい、頂きます」
由美はお茶を入れながら、
「河田君……さっきの話ね、気持ちは嬉しいけど、
泣いたって始まらないのに4
「はるさん、こんばんは!」
由美はカウンターの中にいる女性に声をかけた。
「いらっしゃい! 由美ちゃん奥にどうぞ。お連れさんは初めてね、はるです」
年の頃は六十才ぐらいだろうか。
笑顔が魅力的な女性だ。
大和はそんなことを思いながら、深々と頭を下げ由美の後について奥の座敷へ上がった。
由美はハンガーを大和に渡し、自分もコートをハンガーに掛けると、そそくさと掘りごたつに足を入れた。
大和も由美