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泣いたって始まらないのに5

 張り詰めた空気の中、ほぼ同時に食べ終えたふたり。
「ご馳走さまでした」
と大和が小さく呟き、ふたりの膳を入口近くに置いた。
「あっ 有難う。美味しかった?」
大和は笑顔で、
「とっても美味かったです。美味しいもの食べるって幸せです」
「本当! 幸せ感じるわぁ」
由美も自然に頬が緩んだ。

「お茶飲む?」
「はい、頂きます」
由美はお茶を入れながら、
「河田君……さっきの話ね、気持ちは嬉しいけど、やっぱり私無理なの」
と言いながら湯呑を差し出した。 
 大和じっと由美を見つめたまま何も言わない。
「ごめんね」
と由美は頭下げた。
「無理です。納得できません。笹山さんは僕を嫌いですか? 駄目な理由聞かせください!」
困った!こんな話しなら、聴かなきゃ良かったよ。
理由? 言えるわけ無いでしょ!
大して?いや、全然知らない子に
話す訳ない。
由美は暫く黙っていたが、大和の目を真っ直ぐ見つめながら、
「河田君? 好きも嫌いもお互い何も知らなんだよ。だいたい私は六つも上でだし。恋愛なんて言う対象にならないでしょ? それに性格暗いのよ~」
大和は、だから何だ!とでも言いたげな顔為ている。
「先ず訂正します。年は5才違いです。そして根暗とかは関係ありませんよ。根暗が恋愛できない法律でもありますか? それより僕は、今物凄く怒ってます! 其れは、笹山さんがこれからの人生、誰とも付き合わないって言った事に納得できない!」
由美も無性に腹が立ってきた。
「それはきみに関係無いことでしょ。よしんば、話したってわかる訳ないのよ!」
由美は語気を強め言い放った。
「関係なくないでしょ。好きな、大好きな人がそんな悲しい事言うなんて耐えられない」
大和の声が微かに震えるている。
「でも……きっとわからないよ。河田君には」
そう言うと、由美は下を向いたまま溢れ出す涙を止められずにいた。
 その時はるの声がした。
「由美ちゃん、開けますよ」
静かに部屋に入って来たはるは、膳を下げながら、
「由美ちゃん、河田さんの気持ちにはちゃんと向き合わないと駄目よ。そして自分の気持ちにもね。このまま河田さんを突っぱねたら、由美ちゃんはあの男と変わらないのよ」 
大和の方へ身体を向き直したはるは、
「河田さん、由美ちゃんがもし話したら、どんな事も受け入れてください。人の心に触れて、心と心を重なり合いたいと望むなら、それなりの覚悟が必要なんです。わかりますか?」
大和は頷き、はるに深々と頭を下げた。

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