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泣いたって始まらないのに10

 池袋に到着し電車を降りた二人は、人波をやり過ごすようにホームの端に寄った。
「河田君は何口? 私は東口」
「僕は西口なんです。あっ!でも送らせてくだい」
 由美は車内での息苦しさが蘇えり、
「大丈夫だから、このくらいの時間は何でもないし。じゃぁここで。お疲れ様! 大学の方頑張って!」
由美は軽く手を振りながら、どんどん階段をを降りて行った。
 大和は一瞬呆気にとられたが、すぐに由美を追いかけた。
「待ってください!」
改札口を出ると由美の前に回り込み、
「お願いです。送らせて下さい。笹山さんは平気かもしれないけど……僕が心配なんです」
そう言うと、大和は由美の腕をしっかり摑み、そのまま歩き出した。
結局、大和は江古田まで由美を送り、帰っていった。
 由美は、大和と別れてから酷い吐き気に襲われていた。
酔ってなんかいない。 
由美は部屋に入ると、バックを投げすてトイレに飛び込んだ。
 吐いた。吐いた。もはや胃液もでない……
そして這うようにトイレから出ると、風呂場に向かった。 
洗面台に体を持たれさせ、口を濯ぐ。
なんて酷い顔……疲れ切って、はりもない、お前は幾つなんだ?そう鏡に映る自分に毒つくと、ずるずるとその場にへたれ込んでしまった。
 大和が傍にいるときは、辛うじて平静を保てていたが、ひとりになると、ぐちゃぐちゃな感情がこみ上げてきて、苦しい!苦しいよ……なんとかならないのか! 
 あぁぁまただ……もういい加減に為てくれ! なんで? なんで!秋之に抱かれ、身悶える自分が見えるんだ! 見たくもないんだよ! 秋之は冷めきった顔で見下ろし、何度も何度も同じ事を聞いて来る。
答えても答えてもやめてはくれない。
「ああ~ああ~……どう答えれば終わるの!」
秋之に身体中舐め回される感触がリアルに蘇ってくる。
嫌悪の震えが止まらない。
「感じない、感じない、感じない
私は何も感じないのよ! やめてお願い! ああ~いや~ぁ」
由美は為す術もなく、狂ったように泣き続けるだけだった。

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