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泣いたって始まらないのに6

 大和は静かな声で話し始めた。
「僕一目惚れなんです。バイト初日にです。短髪、細見、笑顔が可愛い、優しい声。まさかまさかでした。運命だって思いました。大袈裟じゃないんです! いつも笹山さんを見てました。見てるだけで嬉しくなっちゃって。でもある時気づいたんです。この人笑えないんだって。いつも心が泣いてるんだって。そしたら、もうどうしようもなく苦しくなって、僕がなんとしたいって、言う気持ちがデカくなってしまったんです。偉そうでごめんなさい。でも! 笑顔にしたいって本気で思ったし、今だって思っています」
由美は大和の言葉を聞きながら、フッとため息をつくと顔を上げた。
そこまで言ってくれるこの子には、はるさんの言うようにきちんと話すべきだと思った。
理解してもらおうとかでは無い。
今の自分を見せるだけだ。
そうすれば、この子も諦めてくれるにちがいない。
由美は覚悟を決めて話し始めた。
「私二年前……二十才年上の人を好きになって。始めは片思いだった。でもある日想いが通じてお付き合いするようになったの。毎日夢心地って言うのかなぁ、彼のこと想うだけで涙が溢れるほど幸せな気持ちになれたの。だけど、すぐにはそう言う関係にはならなかった。私が求めているなんて、相手は百も承知だったはずだけど、敢えてそう為てこないことが、かえって大事にされてるって思えてまた嬉しかった。だから初めて求められた時はもの凄く嬉しかった……ってこんな話しが続くけど、河田君気持ち悪くない?大丈夫?」
「聞かせください。全部。僕は大丈夫ですから」
大和は由美を真っ直ぐ見つめた。
「わかった。でもやめてほしかったらいつでも言ってね」 
そう念を押すと由美は続けた。
「本当幸せだったの。彼に抱かれていると、愛されているって感じる事ができて。彼も幸せだって言ってくれてた。結婚の話しも彼からしてきたし、バツイチだし、この歳だから君と前に進むことを真剣に考えてるって。だから私にもちゃんと考えてほしいって、彼はそう言ってくれたの」
そこまで一気に話すと、由美はしばらく黙ってしまった。
「大丈夫ですか笹山さん? やめますか?」
大和は優しく声をかけたが、由美はそれには答えず、また話しを始めた。

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