出版で人生は変わるのか?
フリーライター&イラストレーターの陽菜ひよ子です。
一発逆転ホームラン的に、人生が劇的に変わることを期待するときが誰にもあるだろう。多くはライフスタイルが大きく変化するとき。人によっては「進学」「就職」「結婚」などがそれにあたるかもしれない。
もしかすると「出版」もその一つだろうか。そして、本当に出版で人生は変わるのだろうか。
出版の現実
わたしは今までに3冊の本を出版している。著者として豊富な経験があるわけではないが、わたしの乏しい経験から少しだけわかったことを書いてみたいと思う。
1冊目:ぬり絵本(大手出版社)
わたしは2006年に最初の「ぬり絵本」を出版して、イラストレーターとしてのキャリアをスタートさせた。
出版社は大手だったので、新人の作としてはかなり大きく扱ってもらえた。東京駅の大きな書店のすごく目立つ場所に大量に積んであるのを見て、「ああもうこれでわたしは安泰❤」と思ったものだった。
でもそれは大きな間違いだったのである。
この本はわたしの本ではあるが、わたしはイラストを担当しただけで、企画や執筆をしたわけではない。この本を制作した編プロから、同じジャンル本の挿絵の仕事が来たほかは、新しい仕事に結びついたものはない。
また、この本のイラストのスタイルと、本来自分が描きたかったイラストのスタイルが違ったことで、実績と売り込みたい先が乖離した。2010年頃には、わたしは自分をどう売り込ばいいのか完全に行き詰っていた。
2冊目:コミックエッセイ(中堅有名出版社)
2009年頃に漫画を描き始め、描きたいネタも見つかり、2015年に2冊目であるコミックエッセイを中堅の有名出版社から出版。自分で企画をして持ち込んだという意味では最初の本である。
この本もかなり話題にしてもらえたと思う。名古屋の大きな書店の入り口近くにベストセラーと一緒に積まれ、サイン会とトークショーまで開催していただいた。
でも、それでもここから何かが変わったことは何もない。
実はその後も、この続きを読みたいという編集者はたまに現れるのだが、なぜか形にならないまま今に至る。
3冊目:地域ネタエッセイ(中堅出版社)
2020年、3冊目にしてついにわたしは、文章・イラスト・漫画を担当した本を出版。写真と最後の章の執筆はオットの宮田が担当しているので、この本は共著である。
この本は名古屋の大きな書店で週刊売上の1位2位を獲得したり、地域のテレビ番組に出演したりと、コロナ禍においてもかなり露出していただけたと思う。
この本だけはその後のわたしの仕事に多大な影響を及ぼしている。
まず新聞に本に関するエッセイが掲載され、本を読んだという新聞社から連載の依頼があった。さらに、「新聞媒体に書いている」実績からほかの新聞社や固めの媒体でインタビュー記事のレギュラーなどが次々決定。
また、本を読んだというテレビ局から、新しく制作する番組のアプリに掲載するコラム(お店レポート)の連載を依頼された。
3冊目にしてようやく、出版したことで仕事の幅が広がった。
でもだからと言って、一発逆転というほど人生が変わったわけではない。いつ仕事が途切れてもいいように営業は欠かせない日々だ。
データで見る出版の現実
「出版」で人生を変えるためには、ベストセラーになったり、メディアミックスでドラマ化や映画化、コミカライズ(ノベライズ)などされたりして、「時の人」となり、倍々ゲームのように収入が増える必要がある。
でもそれは、出版さえすれば、誰でもできるわけではない。
出版で話題になるのは、処女作で100万部のベストセラーとなり、スターダムに乗っかるような「サクセスストーリー」。でも「話題になる」ということは、珍しいことだからでもある。
そのようなサクセスストーリーは、毎年出版される数万の本からすれば、ほんの一握り。本が売れていた時代でも頻繁にあるわけではなかっただろう。
「本が売れない」と出版社も書店も大変な思いをしている今は、さらにレアケース。毎日200点もの本が出版されている昨今では、まず「書店に並べてもらう」ことだけでも実は大変なこと。
よほど数字の見込める作家以外は、初版は数千部が普通。初動がよいと重版がかかり、何度か重版を重ねて10万部、100万部と伸びていく。
しかし、そもそも市場に出回るほとんどの本は重版がかからない。
重版がかかるのは数年前で約2割と言われていた。今はもっと少ないかもしれない。つまり8割以上の本は初版どまりなのだ。
本を出したというとみんなうらやましがるけど、金額面だけでいえば、新人が手にする印税は30万~50万円程度なのだ。会社員の1カ月の給料程度。でも本は1カ月で書くのは難しい。(書ける人もいるけど)
3カ月かかって書いた渾身の作で30万円ぽっきりなんてよくあること。
出版よりは競馬の方が儲かる可能性が高いんじゃないかと思う。
期待せずに「夢」を見る
ここまでを読んだ人から「いやいや、儲けたいわけじゃないのよ、本が好きなのよ、著者になってみたいのよ、先生と呼ばれたいのよ」と叱られそうだ。
確かに、自分の本が書店に並ぶのは格別だ。わたしはイラストレーターとして書籍にイラストが載ったことは何度もあるけれど、背表紙に自分の名前が載るのは著者だけ。本の袖や奥付に載るのとは、まったく感覚が違う。
でも、正直なところ、最初の2冊が出版されても、わたしの生活は何も変わらなかった。半年後には書店から自分の本が消え、わたしはまた「売れないイラストレーター」に戻った。
先生なんて呼ばれたのは一瞬だ。先生と呼ばれ続けるためには、コンスタントに本を出さねばならない。
それでも何かが変わるというなら、自分が「こうありたい」方向に近づく力が、本にはあるかもしれない。でも期待していると肩透かしを食らう。
とはいえ、出版はまだまだ夢がある、と思いたい。過大な期待を抱かずに夢を見てみるのはいいかもしれない。
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