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他人のふんどしを借りて商売してはいけないなら、ほぼあらゆる企業・団体・業界は資本主義に参加すら不可能だ-JR北海道vs産経新聞社

2024年6月26日に衝撃のニュースが報じられた。

北の鉄路を考える⑦ JR北海道に怒られた!の巻

これは産経新聞社が掲載しているウェブコラムのシリーズで、JR北海道を含む現地の交通の現状などを取材したレポートだった。

連載2回目の記事では、忖度なく北海道の公共交通が抱える現状の問題にも触れた内容がポストされたが、この記事に掲載された写真を削除するようにJR北海道広報が要請した。

弊社では、ご取材に際して弊社敷地内での写真撮影の伴うものについては、ご取材日の10営業日前までにご申請をいただき、内容を確認したうえで取材あっせん書を発行しております(札幌駅改札内など、安全確保が難しい場所では承認できない場所もございます)。また、ホーム上・列車内での撮影は安全確保のため立ち合いを必要としており(立ち合いは原則有料となります)、そのお手続きもお願いしております。なお、事後の申請はお受けしておりません。今回、申請をいただいておりませんので、第1回の南千歳駅及び第2回の長万部駅のホーム上にて撮影された写真については、デジタル版から削除していただきますとともに、第3回以降は弊社敷地内で撮影された写真は掲載されませんよう、お願いいたします」

引用元:https://www.sankei.com/article/20240626-QR7IBT6AY5J6FC4LSILK4QHACQ/

詳しい内容はURLの記事で記者が報じているので、まずはそちらを読んでもらいたい。あらゆる記者、報道機関、写真家などに中指を立てる、挑戦的な内容だと思った。JR北海道の敷地内(駅・ホーム・車内)で撮影した写真を掲載するためには有料の許諾が必要になるらしい。

産経新聞の報道では、記事の中にネガティブな内容、文言、JR北海道にとって不都合な内容があったから嫌がらせなのだろうという見解になっている。

敷地という括りで、駅舎の外観を撮った写真まで掲載NGを表明したそうだ。

まず最初に公式サイト?イヤイヤご冗談を

交通機関が、報道内容が気に食わないから削除を要請する姿勢も確かに驚く。ただ、フリーの写真家で活動していて、鉄道写真を取り扱っている私のポジションからは別の切り口での心配がある。

収益化目的の撮影を原則禁止し、法人は許諾を得て取材料を徴収、個人に至っては完全にNGなんだそうだ。

確かに個人でも有名YouTuberともなれば1動画でとんでもない再生回数がされ、とんでもない額の収益が上がるだろう。自社の電車、路線、車両を勝手に写して莫大な収益を上げているのは鉄道会社側から面白くないと思うかもしれない。

ただそれは捉え方によっては目先だけしか見てない、幼稚な妬み嫉みに他ならない。

世間で一般的に、なんか知りたいと思ってまず「JR北海道オフィシャルサイト」を最初に開く人間と、報道機関やSNS、YouTubeのインフルエンサーのいずれかのサイトを見に行く人間では、どちらが多いと思うだろうか。

頼んでないのに勝手に報じていると言うならそれまでだ。頼まれても報じなくなるだけだからだ。

他人のふんどしを借りないビジネスモデルを教えてくれ、それやりたい

よく「他人のふんどしを借りて商売をしている」という言葉で、報道や発信のビジネスを叩く論調がある。

しかし残念ながら、その叩くためにポストしたSNSや掲示板、そこに掲載された情報は厳密にはその運営元、そのドメイン管理者にも権利が渡るのを知っているだろうか。便利なGoogleの画像検索で、各ウェブサイトの写真が掲載されているのは、日本では著作権法に触れているのをご存じだろうか。

権利が渡っているからこそ、プラットフォーム側が勝手に削除したり改変することができる。個人が一生懸命考えた140字のツイートも、美味しいスイーツの画像も、ポストした時点でXのコンテンツともみなされる。まさに、他人のふんどしでビジネスをしているのだ。

はて、Googleに掲載を取りやめるように申請する者はいるだろうか。Amazonに自社商品の画像を勝手に掲載されて怒るだろうか。インターネット上でのビジネス市場がこれだけ大きくなった時点で、やれ著作権だ肖像権だと、古い体裁の権利を主張しても時代に合わなくなっているのが明白だ。

この成熟した資本主義社会、デジタル社会で、他人のふんどしを全く借りてない商売とは一体なんだろうか。まさに自分を棚に上げて人のやっている事の足を引っ張りに行く典型的な傲慢である。

日本では公共交通機関の乗り物はキャラクターだったんだ

確かに施設内の写真撮影に制限を設けているサービスで思い当たるものはある。それは東京ディズニーリゾートだ。園内で撮影した写真を営利目的でインターネット上にアップロード、放映等を禁止しているのは今回のJR北海道の件と同様だ。

だが、東京ディズニーリゾートとJR北海道では、この措置に至る理由に明確な差がある。それは「キャラクター」と「公共交通(乗り物)」の違いだ。

例えば、インターネット上に流れたミッキーマウスの写真、それらを複製、切り抜きされて商品化されたら確かに困るだろう。なぜなら、それは絵だからだ。写真に撮れば全く同じ形、全く同じ色、全く同じデザインで複製されてしまうリスクがある。

一方で「鉄道写真」を撮られて何か困るのだろうか。屋外を走る公共交通を撮影禁止とできるなら、もはや産経新聞社がおっしゃる社会主義国のようだと私も思う。「公共」という言葉すら意味をなしていない。

立体物である車両や駅舎を写真に撮るのと、ミッキーマウスとかアニメ映画をカメラで撮ってまんま複製するのと、禁止にする事情が全く異なることは、写真にも漫画にも興味がない人でも理解できるだろう。

確かにプロパティリリースと言って、立体物にも権利が絡むものがある。有名な彫刻アートや神社仏閣、歴史的な文化遺産などだ。

私は前からこの「プロパティリリース」という概念について懐疑的だったスタンスだ。立体物を写真に撮っても、決してそのもの自体ではない。私が法律家ではないから取り決めの経緯は知らないが、立体物を写真に撮ることが絵とか映像と同様に「複製」にあたるというのに違和感がある。

さらに言えば、鉄道車両は彫刻なのか、駅舎は神社仏閣なのか、その答えは公共交通機関だ。もっと言えば乗り物だ。

なんちゃら系は格好良いセンスだ、あの電気機関車の模型欲しいなど、ファンが勝手に盛り上がっている中だから成立してる話だ。なんでもキャラ化、グッズ化したがる日本では、電車のデザインすらマスコットキャラクターで、それを交通機関が自ら言っているなら実に寒い話だ。

この件が前例になったら本当に嫌だな

目の前の光景が映像、写真になって出てくる。そもそもカメラというのはそういう道具である。

これからテレビのニュースで駅前の様子が報じられたり、お祭りのお神輿がロータリーに進入したら、そこに自社車両が写っていたら目くじらを立てて新聞社に取材料でも請求するのだろうか?いちいちモザイク処理を要求するのだろうか。

今回の一件が前例になり、今後他の交通機関や公共スペース、屋外の様々な場所で撮影がらみの意味不明ルールがどんどん波及してくのはぜひ辞めてもらいたいものだ。

そんなにカメラに映して欲しくないなら、カバーでもかけてしまっておけば良い。

北海道の観光産業はいいトバッチリだね

鉄道車両にプロパティリリースが認められるか否か。実際のところは権利を持つ車両もいるらしい。調べて驚いた。また、JR東日本も列車撮影に関するガイドラインで同じような文言が確かに掲載されている。

だが、JR北海道以外の鉄道会社は今のところ目くじらを立てて取り締まっていないどころか、産経新聞のような報道メディアに実際に削除要請する「実力行使」に踏み出したのは初なのではないだろうか。

全国の収益化しているとみなされる報道機関、写真家、YouTuberが撮影に行くたびに、毎日電話がパンクするくらい許諾を一斉に申請してくる業務がお望みなのか、はたまたJR北海道を報じて欲しくない、言及して欲しくない、触れるなら金を払えというそのスタンスを、ぜひ貫いてもらいたい。

そんなに簡単に許諾なんて取れないし、取るための作業手間コスト、取材であれ映さないでこれ言わないでと規制、捻じ曲げられた作り物の報道になる。個人はもちろんインフルエンサーだろうが、業界に精通する雑誌社すらもJR北海道に取材するときだけ異様に手間が増える。

やがて北海道観光の取材を組むことすら敬遠されて、現地の産業は廃れ、利便性が悪い公共交通だけが残った北の大地に、人は果たして住みたいと思ってもらえるだろうか。

余白を残さない「善悪」「白黒」「裏表」論が窮屈、萎縮、衰退を生む

公共交通の乗り物、その形状にいちいちデザインの権利が主張できるなら、その理屈が通るなら今後どんどん様々なものに「権利、許諾、取材料」が当たり前に主張できるようになり、さらにより窮屈な社会が待っていると予想する。お国と足並みをそろえて利権にすがる姿勢を是とするなら、この国で暮らす自らの首を絞める行為によって窮屈さがさらに増す。

全てを黒か白か決めたがる、グレーゾーンのような余白は認めない。SNSでやっている言論闘争のような正義を主張し合う取り組みが、いよいよ公共交通にまで及んできた。

なんでもかね、カネ、金。本業の交通ビジネスが儲からなくなれば、どうにかして自分らの収益を上げるために、なりふり構わず他の産業や文化を吹き飛ばして排除する。

ただでさえ人口が今後縮小して規模が萎んでゆく日本で、交通機関の一企業が今のインターネットメディアの潮流に逆行する姿勢なのは末恐ろしい。

そして一番言いたいのは、大好きだから存続してほしいし、沿線含めて応援したかった鉄道会社の一つがこういうナーバスな姿勢を露わにされた事が、今回ひどくガッカリしてしまい長々と語ってしまった。

追記:2024-7-19 19:08
時事ネタを扱ったので、現時点で見つけることができた、閲覧可能な出来事のソースをリンクしておきます。

北の鉄路を考える⑦ JR北海道に怒られた!の巻 - 産経ニュース
「JR北海道は話題にしたくない」BSフジ小樽駅舎撮影への抗議で鉄道系YouTuberに広がる困惑の声 - Yahoo!ニュース
テレビ東京「所さんの秘境駅」にJR北海道が「放送待った」!? 下金山駅ロケ、再編集し2カ月遅れで放送 - Yahoo!ニュース
JR北海道オフィシャルサイト:よくあるご質問 - JR北海道が保有する列車内や駅などの施設内で撮影することはできますか。(映画やドラマ、CM、各種SNS、動画共有サイトへの投稿など)

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