ひからびたひと

君は僕を忘れるからその頃にはすぐに君に会いに行ける。短歌/俳句/川柳を勉強中。好きな作…

ひからびたひと

君は僕を忘れるからその頃にはすぐに君に会いに行ける。短歌/俳句/川柳を勉強中。好きな作家☆内田百閒、小池正博、リチャード・ブローティガン、レイモンド・カーヴァー

マガジン

  • 現代川柳

    たてがみを失ってからまた逢おう  小池正博(『セレクション柳人6』)

  • 現代俳句

    ただならぬ海月ぽ光追い抜くぽ  田島健一(『ただならぬぽ』)

  • 現代短歌

    まるでおまえ百人くらいいそうだねけれど百では少なすぎるね  柳谷あゆみ(『ダマスカスへ行く 前・後・途中』)

最近の記事

午後もまた未来のひとつ

午後もまた未来のひとつ  月だ  川合大祐(『スロー・リバー』) むかし、秋元康さんが、なにかの事件が起きて、コメントを求められたときに、「それでもひとはやっていくしかないんだよ」と答えていたのが、こころにのこっている。 けっきょくそれしかないんじゃないか、と私もときどき思ったりする。 起きたくない朝や眠りたくない夜があるだろう。 会いたくないひとに会う日があるだろう。 好きだと言わなければならない日も、ごめんなさい行けませんという日もあるだろう。 じぶんをやぶりすてたく

    • 僕にはその強さがない

      僕にはその強さがないし強くなろうともしていない  御中虫(『おまへの倫理崩すためなら何度でも車椅子奪ふぜ』) 手紙恐怖症みたいなところがあって、手紙が来ても手紙の倉庫みたいな場所に積んでいってしまうことが多い。 手紙が原因でそのうち殴られたりするんじゃないかと思うこともある。なんで俺の大事な手紙を読まなかったのか、と。 手紙を読めないひとのワークショップみたいなものにも行ったが、みんな返事を書くのもこわい、と言っていて、あらたな恐怖症を発見しつつあった。 私は元気です、

      • 好きなバンドが解散する

        メロン切る好きなバンドが解散する  松本てふこ(『汗の果実』) 気になるひとを検索していたら、昔しばらく書いて放置したままだった自分のブログが出てきた。 気になるひとのことが書いてある。 どうして気になったかや、 でもきっと明日にはもう忘れてしまうこと、 きょう気になるひとから聞いた気になるひとの話、 気になっていた人がついに気にならなくなったのに次の日にはもう駆け込むように気になっていたこと、 なぜか一日中苺のことが気になってしかたがなかった日のこと、 どういうわけか

        • きみとぼくだけの

          きみとぼくだけの学級閉鎖春の雪  松井真吾(『途中』) 今日、ありがとうについての話を聞いた。 「ありがとう、ってね、余るくらいにたくさん配るくらいでちょうどいいんだよね。ああこれは塩を入れすぎたかなってくらい、ありがとうを多めに言う。でもそれくらいでちょうどいいときがあるんだよね」 ああそうかも、と私は思った。 「ありがとう、ってことばがあってよかったね。ありがとう、って思ったときにありがとうって言葉がこの地球になくて、代わりのことばがさようならとかおはようだったら

        午後もまた未来のひとつ

        マガジン

        • 現代川柳
          32本
        • 現代俳句
          31本
        • 現代短歌
          16本

        記事

          巨峰食う

          うへのはうより粒取つて巨峰食ふ  岡田一実(『光聴』) 本の中にどんな風にいちごが表れているか興味深くて、いちごに注目しながら読んでいる。 見つけると人に報告することもある。 今日はこういういちごを見つけたよ、とか、この人はこんないちごの使い方をしていたよ、いちごとたばこ、いちご憲法、この世界にはまだまだ知らないいちごがあるみたい。 大学の頃に、本の中のいちごを研究すればよかった。いちごの発表をすればよかった。 なにをされてる方なんですかと言われたときは、主にいちごの

          ながれぼしをながびかせる

          ながれぼしそれをながびかせることば  福田若之(『自生地』) 田島健一さんの句集『ただならぬぽ』の帯文に 「あらゆる人のはじまりであることの困難さの代わりに。」 と記してあって、ねえねえこれってどういうことなんだろうね、と隣の机のひとに聞いたりしていた。 「あらゆる人のはじまりであることの困難さ、って、はじまりの場所に立つってことは難しいってことなのかね。人はアダムにはなれないってことなんだろうか」 「アダム」 「アダムってきっとさいしょのひとでしょ。さいしょに夕日を見た

          ながれぼしをながびかせる

          夜明けまで待って

          夜明けまで待ってすべり台から滑る  樋口由紀子(『容顔』) こんなことを君に聞く。 「もし夜明けまで待った後、君は何する?」   夜明けまで待ってAする というこのAはひとそれぞれの世界や生き方や気合いによって違う。 夜明けまで待ってこれからももう会うこともないだろう君に手紙を書くひともいるだろうし、夜明けまで待って気になっていた前髪を切るひともいるだろう。 樋口さんはそのAをすべり台から滑り落ちることを選択した。 川柳はいつもこのAを聞いてくる。 そして夜明けま

          夜明けまで待って

          胃にぱんをしずめて

          胃にぱんをしずめてそうして窓際にボトルを立ててねむるのでした  蒼井杏(『瀬戸際レモン』) 短歌を読んでいたら、ちっちゃなナゲット、という言葉が出てきて、ちっちゃな、っていいな、と思った。 私たちはこの世界でちっちゃな何かを探す使命があるんじゃないかと時々思う。 うろうろしながら、この世界のちっちゃなを探す。 ちっちゃなナゲットを見つけた人は一つのちっちゃなを見つけた。 私はちっちゃなはしごを見つける。 これはなんのためのはしごだろう。 こんなちっちゃくては誰もどこにも

          胃にぱんをしずめて

          猫あつまる不思議な婚姻

          猫あつまる不思議な婚姻しずかな滝  田島健一(『ただならぬぽ』) ふっとときどきこの猫のあつまってくる結婚の句を思い出したりしていた。 「どうして猫集まって来ちゃったのかね」と一緒にバスに乗っていたときに聞いたこともあった。バスに乗っている人も外を歩いている人もみんな楽しそうだった。 「ディズニーみたいだよね。なんか結婚するぞって大事なときに動物が集まってくる。歌い出すチャンスだし、姫になれるチャンスだ。姫どき、っていうのかな。 滝は静かでね。滝が静かってことはそれがわ

          猫あつまる不思議な婚姻

          耳の形が思い出せない

          耳の形が思い出せない好きなひと  時実新子(『月の子』) 表現っていうのは、みんながポストは青いと思っても、ポストって赤いんですよ、ポストは赤いんです、私にはそうとしか思えないんですよ、それ以外ないんです、と言い切ることなんだと岩松了さんが書いていた。 たぶん本当に世界は無数のいろんな可能性があって、あなたの世界も私の世界もあるし、そのこともわかっているけれど、でも私の世界はこうでしかなかった、これ以外ありえなかったという形で、ひとつの世界を立てることが表現なのかなとも思

          耳の形が思い出せない

          ぼくはまだ青空にいる

          ぼくはまだ青空にいる 平気  妹尾凛(『Ring』) 眠る前に月って星なのか気になって電話をかけたことがある。 「月って星なのか?」と。 「星でいいよ」と相手は答えたように思う。たぶんそれは「星じゃなくてもいいよ」とも言っていたように思う。 月が星だったとしてもそうじゃなくても、あなたはあなただし私は私だし、それにもう、私、ゆくから。 そういう感じだった。ゆく、っていうのは、私もう深い場所にねむりこむの、という意味だ。深夜は、感じ、だけで会話が行われることはわかって

          ぼくはまだ青空にいる

          たすけてほしいのです

          たすけてほしいのです洋梨くるりくるり  阿部完市(『現代俳人文庫4』) たすけてほしいのです、なんていう俳句を見ると、また俳句のことがよくわからなくなってくる。例えばもし、   たすけてほしいのです洋梨くるりくるり  芭蕉 だったら少し今の世界は変わっていただろうか。松尾芭蕉がもしこんな句を作っていたら。それを学校で習っていたら。 放課後、みんなのいなくなった教室で少し話してる。 「あれ、あの芭蕉の句、ええと、たすけてほしいのです、って、どういうことなんだろうね」 「

          たすけてほしいのです

          私を忘れてもいいよ

          この道と私を忘れてもいいよ  やすみりえ(『現代川柳鑑賞事典』) WOWOWでやっていた小林聡美のペンションのドラマが良かった。どこか不審な紳士、役所広司が泊まりにやってくるのだけれど、役所広司は本当は狐で、御礼の茸を残して消えてしまう。 でも役所広司くらい色んな役をやっていると確かに人間を通り越して狐の方に近いんだよなあとも思う。 役所広司はもう役所広司じゃなくなってることで役所広司なのかもしれない(狐構文)。 私を忘れるっていうのは、狐の方に近づいてゆくことなのかな

          私を忘れてもいいよ

          風の声

          風の声十一月はよく迷い  渡辺和尾(『現代川柳鑑賞事典』) 本に挟まってあった手紙が出てきて、「あなたは水のような人です」と書いてあった。 風のような人がよかったな、とちょっと思う。水だと流れていってしまうではないか。事実流れて来てしまったし。 あなたはどこに行ったのか、私もどこにいるのか。 でも風もそうか。 風だって、あなたを通り過ぎて、ここまで吹いて来てしまう。 だったら何がいいのか。 手紙に「あなたはコンクリートのような人です」とか「あなたはしっかりと大地に座り込ん

          チャーリー・ブラウンに幸せが

          チャーリー・ブラウンの巻き毛に幸せな雪  野口る理(『しやりり』) よく気にかかっていることのひとつに、チャーリー・ブラウンはあの後幸せになれたのか、というのがある。 のび太のことはそんなに気にならないのだが、ブラウンの方は気にかかる。 人に聞いたりもする。 「あの、なんでもない質問と思って聞いてもらいたいんだけれど、チャーリー・ブラウンはあの後幸せになれたのかね」 「ちゃーりー、なんだって? 幸せってなんの話? なんか始まるの?」 「いや、いいんだけれど」 風。 スヌ

          チャーリー・ブラウンに幸せが

          また夜に家で会おうね

          また夜に家で会はうね、眠かつたら先に寝てゐていいんだからね  田口綾子(『かざぐるま』) 〈こちら側のどこからでも切れます〉というマジックカットのことを話題にする人は多い。書く人も多い。 多分みんな長く生きて来ていて、ほんとうはどこからも切れないものがこの世界にはあるんだよね、ということを知ってるからだと思う。 この世界にどこからでも切れるものなんてない。今日あったとしても、明日ない。 すべてのひとにどこらからでも切れる袋が配られても、自分一人にだけどこからも切れない袋

          また夜に家で会おうね