猫あつまる不思議な婚姻
猫あつまる不思議な婚姻しずかな滝 田島健一(『ただならぬぽ』)
ふっとときどきこの猫のあつまってくる結婚の句を思い出したりしていた。
「どうして猫集まって来ちゃったのかね」と一緒にバスに乗っていたときに聞いたこともあった。バスに乗っている人も外を歩いている人もみんな楽しそうだった。
「ディズニーみたいだよね。なんか結婚するぞって大事なときに動物が集まってくる。歌い出すチャンスだし、姫になれるチャンスだ。姫どき、っていうのかな。
滝は静かでね。滝が静かってことはそれがわかるくらいよっぽど静かなんだよ。すごく静か。猫たちも静か。にゃーにゃーもしない。
みんな静かなの」
「あのひとりでずっと話してるけど、なんか私に聞いてるの?」
「いや、ただとても不思議だし、よく思い出すことだから。今でもどういうことなのかわからなくて。暗さと、神秘性と、メルヘンと」
「なんのこと?」
「あと、光」
それから黙ってしばらくバスに乗り続けた。
私はこのバスにどれだけ乗っても金色のがちょうを抱いたりすることなく死ぬんだろうなとなんとなく思った。
ハーメルンの笛吹にも出会わない。
馬に乗ったりもしない。
花の前で立ち止まるひとをバスの窓からふっと見た。
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