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小説#02 丸投げ、多重請負構造との出会い

実体験にもとづくフィクション小説です。全文はこちらのマガジンから。


「東京よ!!私は、帰ってきた!!」

東京駅の新幹線乗り場。心の中でアナベル・ガトーのように叫んでいた。
久しぶりに学生時代に慣れ親しんだ東京へと戻ってきたのだった。


僕は村上隆二。20代の青年だ。1年前に新卒入社した僕は大阪支社に配属させられることになった。学生時代に慣れ親しんだ東京から離れたくないという気持ちは強かったが、社命という事なので仕方がない。いやいやながらも大阪に赴任することになった。

しかし、思いの外、というより本当に大阪は素晴らしい街だった。街としての魅力はもちろん。当時、新入社員として業務を覚えていく中では、大阪人特有の寛容さや面倒見の良さに何度も助けられた。また社会人の「呑み」の作法を学ぶ上でも最適な環境だった。

このまましばらく大阪でもいいかな、と思いはじめた矢先。突然、東京本社への異動が決まる。どうやら組織機能の一部統廃合を行うとのことで、所属していた部が無くなるとのことだった。それを契機に、以前より希望を出していたネットワーク機器の開発部署への異動がかなった形だ。

はじめての東京本社出社

2004年の春。桜吹雪が舞う中、僕は本社ビルの前にいた。

昭和感が残る大阪支社とは異なり、本社は30階を超える真新しい高層ビル。そんなビルで働く姿を想像すると、なんだか自分が一流のビジネスマンにでもなったかのような錯覚を覚える。

フラッパーゲートを通り、エレベータに乗り、若干場違い感を感じながらも異動先部署の事務所に入る。事務所内も大阪と違って洗練されていた。大阪では昔ながらのスチール机をつかっていたが、本社はいまどきのキレイな机が並び、自社のブランドカラーで統一された高そうな椅子が並べられている。もちろん部長席に灰皿があるなんてこともない。

事務所内をひととおり見回した後、異動先の課のシマをみつけた。
シマの端にお世話になる課長が座っていたので挨拶する。

「大阪から来ました村上です。これからよろしくおねがいします!」
「ああはい、よろしくね」

課長はマントヒヒに似ているのでマントヒヒ課長と呼ぼう。

「君の席はそこね。」

指定された席には大阪から送ったダンボールが積まれている。周りの方々と軽く会釈を交わし、荷解きをしてPCのセッティングをする。そんなこんなしていたらマントヒヒ課長から声を掛けられた。

「じゃあ軽くうちの課の説明をするね。」
「はい。」

マントヒヒ課長から組織構造や担当ミッションの説明を受ける。異動先の部は日本全国津々浦々に設置する特殊なネットワーク機器を開発する部で、部全体としては100名程度の大所帯とのことだ。

部の中はいくつかの課があり、マントヒヒ課長が管理している課は8名で構成する小規模な課とのことだ。ネットワーク機器を開発するのではなく、ネットワーク機器を設置したり運用したりする「業務」を支援するITシステムを開発する課ということらしい。

一般的に、これら業務を支援するシステムのことをBSS/OSSと呼ぶ。

BSS = Business Support System、業務支援システム
OSS = Operation Support System、運用支援システム

僕は少々面を食らった。あれ?せっかくTCP/IPとかを勉強してきたけど、ネットワーク機器を開発するんじゃないの?というかシステム開発なんてしたことないよ?プログラミングも下手っぴだし。。

「それは情報システム部の仕事ではないんですか?」

マントヒヒ課長は答える。

「うん、たしかに情シスっぽいね。うちの情シスはどちらかというと、財務会計や顧客管理、請求処理や社内OAといった「どの企業でも使う同じシステム」を導入する部なんだ。だけどネットワーク機器の設置や運用といったときには、機器仕様などをきちんと抑えてないとBSS/OSSは作れない。だから、自社特有の業務についてはそれぞれの業務単位でシステムを開発部署があるんだよ。」

どの企業でも共通して実施する財務会計や顧客管理などのことを「ノンコア業務」といいます。一方、その企業独自の業務のことを「コア業務」といいます。村上が勤めている会社では、情シスがノンコア業務を担当し、各事業本部にそれぞれ配置するシステム開発部隊がコア業務を担当する組織構造を取っていました。

そういうものか。うーん、あまりプログラミングは得意じゃないんけどな、と思いつつも、たしかに特殊な仕様を知らないと作れないよなと納得する。

「まあ、適当にやっておいてよ」とマントヒヒ課長は言う。

頑張りましょうじゃないの?と訝しんだがどうも適当にやればいいらしい。このときはいまいち真意を測りかねたが、後々、この言葉の意味が理解できるようになる。

【コラム】ユーザ企業における社内SE管理職の扱い

村上の務める会社では、通例として、課長職は数年でローテンションする仕組みになっていました。したがって、あくまでシステム開発は「腰掛け」にすぎません。そのためマントヒヒ課長はシステムでなにかを成し遂げたいというモチベーションは薄く、主な関心事は赴任期間中に重大な障害を起こさないこと、むやみに社内に敵を作らないこと、予算執行の数字目標をクリアすることでした。

また、マントヒヒ課長自身の経歴にも要因があります。マントヒヒ課長はむかし、ネットワーク規格の標準化活動を行っていた方とのことです。雰囲気は大学教授のようで知性も高いのですが、RFCのようなプロトコル標準を作っていたマントヒヒからすれば、システム開発は所詮インプリの世界であり、下々の仕事なのだ、と思っていたのだと思います。

丸投げ、多重請負構造との出会い

その後、マントヒヒ課長から一緒に仕事をするチームを紹介された。僕を含めて3名のチーム。体育会系な雰囲気のチームリーダと、チャラい雰囲気の派遣社員だ。外見的雰囲気からそれぞれコンドル先輩とキツネ先輩と呼ぶことにする。

「おう、これからよろしくな!」

このコンドル先輩、ちょっと勢いが強いけどいい人そうだな。そして、コンドル先輩にもキツネ先輩にも心から歓迎してもらっている。うん、これなら、やっていけそうだな。

「はい、すぐに戦力になれるようにがんばります!」

コンドル先輩から担当するシステムの説明を受ける。僕が担当するのはネットワーク機器のトラヒックモニタとのことだ。全国津々浦々に設置しているネットワーク機器からトラヒックデータを収集・解析し、リアルタイムに可視化する。このシステムは、ネットワーク機器が高負荷になったときに迂回ルートを探したり、迂回させたあとの正常性確認をしたりするのに使うものだと説明された。

「早速だけど、これから障害報告会があるから同席して。」
「承知しました。」

障害報告会?なんのことだろう?開発部署なら自分たちでプログラムを書いているはずなのに、なぜ外来用の会議室で打ち合わせがあるのだろうか?それに報告ってなんだろうか?

そんなモヤモヤを抱えたまま、僕はコンドルとキツネに付いて行く。

会議室に入るとスーツ姿のいかついオヤジ連中が鎮座している。名刺交換をすると、どうやら超有名メーカーの部長・課長らしい。これはなんだ?圧迫面接でもはじまるのか?僕は何も知らないのだけど怒られるのか?

「大変、申し訳ありません!!」

平謝りである。
僕がではない、オヤジ連中が、である。

今日来たばかりの20代の若造に、超有名メーカーの部長・課長が深々と頭をさげている。メーカーの若い担当者が一通り説明し終わったあと、先輩たちは「原因は?対策は?」とまくしたてる。「申し訳ありません!」を連呼するオヤジ連中。僕は全く発言もできず、この異様な世界を観察することしかできなかった。

丸投げ、多重請負構造に直面した最初の出来事である。

↓つづきです。

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