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小説#03 社内SEのお仕事とは?【楽ではないけど、楽しい】

実体験にもとづく小説です。全文はこちらのマガジンから。

超有名メーカーの部長・課長から平謝りされる経験からはじまった社内SE生活。先輩社員に話を訊くと、どうやら僕はある誤解をしているらしいことが分かった。

社内SEはプログラミングしない

社内では「開発部門」扱いのため、自分たちでプログラミングをしているのかと思っていたが、そういう訳ではないらしい。システム開発は、システム利用企業が「こんなの欲しいんだけど」という要求をまとめて、SIerと呼ばれるシステム開発会社が「承知しました」とシステム一式を開発・構築している。場合によっては要求自体もまとめてもらう。これを通称、丸投げというらしい。

僕はホッとした。プログラミングは学生時代にちょっとだけ経験があったが、あまり楽しい思い出ではなく。あれを仕事として続けていくのはどうなのだろうか。でもそうか、プログラミングはプロにお願いできるのか。

それと同時に疑問も生まれたきた。あれ?でもプログラミングを任せているなら、この人たちって何をしているんだろうか?それを開発部門と読んでいいのだろうか?

【コラム】 ① 社内SEのお仕事とは?

「社内SE 転職」で検索してみると、社内SEの人気がわかります。システムエンジニア(SE)は辛いのでいますぐにでも転職したい。だけどいままでの経験を無駄にはしたくない。だったら、社内SEならバラ色の生活が待っているのではないか。

確かに社内SEがラクなのは事実です。納期間際の無茶苦茶な残業はなく、ワークライフバランスが取りやすいとか。開発自体は丸投げできるので、大量のバグに悩まされることがないとか。40代や50代になったときに、いままで通り技術研鑽が続けられるかの不安が少ないとか。

ですが単に「社内SE = 楽なエンジニア」と思って転職すると、仕事の違いに戸惑うのではないかと思います。僕の周りに元SEから社内SEに転職してきた方は何人かいますが、口を揃えて「こんな仕事だと思わなかった・・・、前のほうが楽だった・・・」と愚痴をこぼしています。

そこで、15年以上携わってきた社内SEの視点から、システム開発における関心事の違いなんかを書いてみようと思います。


まず社内SEは普段どんな仕事をしているのでしょうか。一言で言えば、仕様変更を連発してシステム開発をデスマーチに追い込むことです。

嘘です。
いや、あながち嘘でもないかも。。

僕自身はあまりデスマーチ化させたことはありませんが(?)、いまこの時間にもガドリング砲のように仕様変更が乱発され、日本の至る所で悲鳴や断末魔の叫びがあがっているのだと思います。

で、なんだっけ。そうそう、社内SEの仕事。

いきなりだと説明が難しいので、まずIT業界の構造を俯瞰したうえで、社内SEのポジショニングから考えてみようと思います。

■ IT系業界は社内SEを頂点としたピラミッド構造

一般に、企業では会計管理(ERP)・顧客管理(CRM)・物流管理(SCM)・営業支援(SFA)・情報分析(BI/DWH)といった、企業内の業務機能を自動化したり、意思決定を支援したりするシステムを導入しています。

これらのシステムがどうやって作られているかというと、――汎用的な出来合い製品を使うときもありますが――、縦割り組織に依存した無意味な社内ルールだとか、時代遅れの法制度・商慣習だとか、偉い方向けのサルでもわかる画面とか、そんな個々のニーズにフィットさせた開発を続けています。

事業を行う上ではシステムを導入しないといけません。ですが、実は自社にプロフェッショナルなエンジニアを抱えているわけではありません。そこで、自社で暇をしている社内SEに要件をまとめさせ、社内SEはシステム・インテグレータ(SIer)という専門企業に外注(丸投げ)します。

SIerとはシステム構築の専門会社のことで、利用企業の無理難題を解析して、どのようなシステムを作るのかを考えて下請けに投げる企業です。B2Bが中心なので一般的に有名でないかもしれませんが、NTTデータ、富士通、NECなどの名だたる大企業が名を連ねています。

整理すると、IT業界は次のようなピラミッド構造になっています。

* システム利用企業の社内SEがSIerに丸投げし
* 丸投げされたSIerがどんなシステムを作るかを考え
* 数多あるSIer下請け会社が実際に作る

よくIT業界の多重請負構造の頂点は上流工程を担うSIerだと言われますが、実は上流工程の前には超上流工程というものがあって、社内SEはこの超上流工程で働いています。

■ 社内SEの仕事はシステムを使わせること

なんとなくポジショニングは分かったので、社内SEの仕事に話を戻します。

あなたは「丸投げするだけならそんな仕事いらないんじゃん?」と思うかもしれません。

まあ要らないですね。要らないですが、意外とタスクがあります。

日常生活に置き換えてみると分かりやすいかもしれません。
たとえばあなたが冷蔵庫を買うとします。

冷蔵庫は家電メーカーさんが企画・設計・開発し、カスタマーサポートをしてくれます。ではそれ以外にどんなタスクが必要でしょうか。

まず買うまでに、

* どんなメーカーからどんな冷蔵庫が出ているかを調べる(動向調査)
* 洗濯機のメーカーと同じメーカーにするか決める(システム戦略)
* 家族構成や利用頻度より必要な機能やスペックを決める(要件定義)
* 必要な機能やスペックから、ネットをみて予算感を把握する(RFP)
* 冷蔵庫を買う目的・意図を整理して奥さんに許可をもらう(稟議)

買ったあと、

* 冷蔵庫の搬入予定日を決める(プロジェクトマネジメント)
* 冷蔵庫を配置する場所・電力などを整える(環境整備)
* 冷蔵庫の搬入に立ち会う(施工管理)
* 冷蔵庫に電源を入れて食品が冷たくなるか確認する(試験)

搬入したあと、

* 「野菜はココ、肉はココ」とルールを作り家族に守らせる(定着化)
* 冷蔵庫が壊れたときにメーカーに連絡して直してもらう(保守運用)

最後に、

* 昔の冷蔵庫を捨てる(撤去・除却・産廃)
* 思ったのと違う冷蔵庫だったら奥さんに経緯を説明する(ヘルプデスク)
* 家計簿に計上する、ローンを支払う(財務会計)
* 電気代が想定以上じゃないかを調べる(効果想定)

などなどのタスクが生まれます。

同じようなタスクをエンタープライズで行うのが社内SEの仕事となります。冷蔵庫を作るのはSEですが、家族により豊かな生活を送らせるため冷蔵庫を使わせるのが社内SEとなります。

聞こえのいい言い方をすれば、次の通りとなります。

* SEは、システムを作る
* 社内SEは、システムを使わせて効果をあげる

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