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『君と明日の約束を』 連載小説 第三十八話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いています。
よろしくお願いします🌺
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
最後までいくと文庫本一冊分くらいになりますが、1つの投稿は数分でさくっと読めるようになっているので、よければ覗いてみてください!
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一つ前のお話はこちらから読めます↓

 いつもとまるで別人の彼女が、そこにはあった。
 シンプルな服装や髪型、膝にかけている毛布とかは完全に同じなのに、彼女の目が死んだ魚みたいになっていた。

 勉強を始めて十五分、たったそれだけの時間で彼女の頭がパンクした。何か書き込んでいると思ってみると、ノートには落書きしか書かれていなかった。魚の絵。別に今の自分を表現したわけじゃない、その魚は活き活きしていた。訊くと、今書いている小説に水族館に行くシーンを付け足したいから魚の勉強中らしい。知らないけど。

 つまり彼女は昨日のとんでもない発言が冗談ではないくらい勉強に関心を持たない人間だったらしく、

「成績悪いの、本気だったんだ」
「そんな意味のない嘘つくわけないよ」

 なんて胸を張って言う。
 中でも彼女は、数学が壊滅的に出来ていなかった。それはもう、僕とでも比べ物にならないレベルで。

「学校で授業中寝ているのもそうだけど、小説書いている時となんでそんなに落差あるの? 小説書いている時の集中力が全く活かせてない気がするんだけど」
「いやぁー、お恥ずかしい」
「全くもって恥ずかしくなさそうだけど?」
「だって、眠たいから」

 少し質問と外れたことを言うから、話を戻す。

「いつもはどうやって集中してるの」

 彼女はしばらく考えた後、

「だいたいはね、よし、やろう! って思ったら周りの音とか勝手に消え出すけど、なんとなく分かってるのは、多分無意識に二つ以上消すものを作ってるんだと思う」

 音が勝手に消え出すのも理解できないけど、後半部分も分からない。

「ごめん、もうちょっと分かりやすく説明して」
「一つこれを意識しないようにしようとすると、逆に意識してしまうから。好きな人を意識しないようにして、逆効果、みたいな。でも、二つ以上意識しないものを決めると、もう集中したいこと以外全部無視しようって決められるから。二つのうち一つを選ぶんじゃなくて、選ばないものを増やす感じ」
「それ、できないの? 今」
「無理に決まってるでしょ」
「決まってはないと思うけど」

 とりあえず一回やってみたら、と僕が言うと彼女は渋々ペンを持ち直した。

 僕はあと少しで終わりそうな問題集の課題を進めていく。さっきはうなだれていた彼女もなんとか目の前の問題に向きあっているようだった。

 それなりに問題を進めて応用問題を一つ解いた時だった。彼女が静けさを保っていることに気づき、顔を上げた。

 彼女は、寝ていた。学校で見る彼女みたいにすやすやと寝ていた。

ーー第三十九話につづく

【2019年】青春小説、恋愛小説

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