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『君と明日の約束を』 連載小説 第三十九話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いています。
よろしくお願いします🤲
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
最後までいくと文庫本一冊分くらいになりますが、1つの投稿は数分でさくっと読めるようになっているので、よければ覗いてみてください!
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一つ前のお話はこちらから読めます↓

 いつも周りの音なんて耳に入らないくらい真剣な彼女がこの場所で睡眠していることが新鮮で、位快適な睡眠を邪魔することに後ろめたい気もしたが彼女のテスト結果のため、僕は心を鬼にして彼女を起こすことにした。

 寝始めて時間が経っていないからか、肩を叩くと彼女はすぐに目を覚ました。

「テスト勉強いいの?」
「いいよ」
「良くないでしょ」
「いいの」
「いつもテストどうしてるの? 成績悪かったら田内めっちゃ言ってこない?」
「言われないもんだよ、案外。私、生活態度は抜群にいいからね」

 いつも寝ているのはどこの誰だ、と言おうとして、気づく。確かに彼女は寝ていてもあまり先生から怒られている姿を見たことがない。それに、彼女の友達も、話している時に彼女が寝ているのに彼女が輪の中から外されることはない。それは、彼女の性格の賜物ということなのだろうか。確かに彼女は周りのことがよく見えていると思う。普段は。

 僕は文化祭の後、彼女と初めて話した日のことを思い出す。学校で話すこともあまりないから彼女のそういう面が印象に残ってるだけなのかもしれないけど、集中してなければ気を配ることはできるのだろう。

 それに、彼女とはまだ話し始めて一カ月足らずだ。それなのに僕が女子と二人で休日に会っているのも、彼女が慎一と同じで人の懐にすっと入り込む大胆さと彼女の行為をを許容してしまうのに十分な人間の面白さを兼ね備えているからだ。

「だからテストはとりあえずいいの」

 投げやりに聞こえるその言葉は、いつもの彼女とは似つかないものだった。確かに、彼女が勉強に取り組もうとしているこの状況がそもそも珍しいのだから、それが小説に関わらない時の彼女だと納得するしかないのだけれど。

「やれるだけやってみようよ」

 せっかく彼女が勉強をしているこのチャンスを逃してはならないという正義感にかられ、僕は問題集を終えてから彼女に一問ずつ説明していった。
 彼女は文句を言いながら僕の説明を聞いていたが、その後は観念したのか、諦めた様子で僕による解説を熱心に聞いていた。

 意外なことに、彼女は覚えはいい方だった。僕が昨日の放課後慎一に教えてもらった数学の説明を思い出しながら彼女に教えていくと、彼女はすぐに必要な部分を暗記して基本問題を解いていった。唯一残念なことは、彼女が他の範囲の内容を全てと言っていいほど理解していなかったこと。それに尽きる。

 幸い彼女を再び睡魔が襲うことなかったけれど、その後も彼女のいつもの空気に触れることは叶わなかった。

「お昼! お昼にしよう!」

 無駄に声高く発せられたその誘いは、彼女が周りから漂ってくる料理の匂いにいち早く反応した結果だった。

ーー第四十話につづく

【2019年】恋愛小説、青春小説

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