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『君と明日の約束を』 連載小説 第三十三話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いています。
よろしくお願いします!
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています🌼
最後までいくと文庫本一冊分くらいになりますが、1つの投稿は数分でさくっと読めるようになっているので、よければ覗いてみてください!
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一つ前のお話はこちらから読めます↓

 曇った空によって鏡のようになったガラス面に映る自分の顔に存外な笑みが浮かんでいたから。
 むずがゆさを感じ、僕は体を震わせる。そして景色から目を背けてそそくさと本屋に向かうことにした。

 無事に二冊の文庫本を購入した後本屋から戻ると、彼女は相変わらず波紋ひとつない水面のように張り詰めた集中をしていた。

 近くの店舗から、食器がガチャガチャとぶつかる音が響いているけど、当然のように彼女の心は凪いでいるようだった。ぶつぶつと独り言を呟きながらキーボードを叩いている。

 相変わらずの様子に唇の端から笑みが漏れてしまう。ただまあ、ちょっと変わっているそんな彼女にも学習能力というものは備わっているらしく。
 前回のことを反省しているのか、パソコンの横にお盆を置いて、その上にコップを置いていた。集中しながら水分補給をすることは前と同じだったけれど。

 僕は彼女の後ろに回り込んでパソコンの画面を覗く。さっき読んでいたのと同じような縦書きの文章で、彼女が手を動かすごとに文字が増えていく。当たり前なのだけど、実際彼女の書いたものを読んだ後だとなんとなく変な感じがした。

 彼女は息継ぎをすることもなく、僕が後ろにいることにも全く反応しないから、なんとなく覗き見ていることに罪悪感を覚え始め、罪滅ぼしに彼女のコップに水を入れてくることにした。

 本を読んでいると、僕の耳には小さな子の大きな泣き声が当たり前のように聞こえてきた。前みたいに転んでしまったのだろうか。
 見てみると、その女の子は立ち尽くしたまま叫んでいた。

 人間は慣れる生き物だ。以前経験したのとほとんど同じ状況に遭遇したら、どんな人でも対応が分かる。予想できる。どうすることが最も良いのか、前回よりも即座に賢く判断できる。結果、僕は予想通り無反応の日織を横目に文庫本を机に置いて立ち上がり、すぐに少女の元へ近づいた。

「大丈夫?」

 少女はぐずぐずと鼻をすすりながらゆっくり言葉を話す。
 母親と一緒に来ていたのに、気づいたらどこかではぐれてしまったらしい。どこかでというのは、ゆっくり訊いても首を振るだけだったので分からなかったからだ。

 フードコート内でその子を探している人がいないか見渡したものの、見つけられなかったので、仕方なく僕はその女の子をインフォメーションまで連れて行くことにした。

ーー第三十四話につづく

【2019年】恋愛小説、青春小説

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