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なぜ盛りだくさんの資料になってしまうのか?「足し算指向」 のなせる技!?

2021年5月9日の日本経済新聞「現代人は「引き算」が苦手」という記事(サイエンス面)が掲載されたが、このことは資料作りや図解を含むビジュアル表現も例外ではない

記事は主に科学誌ネイチャー(Volume 592 Number 7853)に発表された論文「People systematically overlook subtractive changes」を取り上げ、「人間は「引く」より「追加」で物事を解決する傾向がある」とする米バージニア大学のチームの説を紹介している。

日常の仕事でも、プレゼンテーションで時間が足りなくなったり、スライドに文字をびっしり書き込んだり、あれもこれも盛り込みすぎて「いったい何が言いたいんだろう」と思わせてしまうビジュアル表現を見かけることが少なくないが、これらも足し算を重ねた結果だと言うことができる。

また会社によっては、資料はワンペーパーでまとめるように決められているため、小さいな文字で、ときには縮小機能を使ってびっしり書き込んでしまい、わかりにくいものになってしまうということも、この足し算が原因と考えることができる。

ただしこのバージニア大学の説に関しては、こと仕事での説明資料に限っての自分の経験から言えば、欧米の文化風土や教育体系で育った人よりも、日本のそれらで育った人の方が引き算を苦手にしているように感じる。

わたしが教えている研修で、参加者に自分が仕事で実際に使っている資料を持ってきてもらい、構成要素を抜き出し、ストーリー構造を図にまとめて、チェックすることによって、専門知識に基づいた情報や判断・意見をそうした知識を持たない人にどう伝えるべきなのかを考えていくものがある。

実際に行ってみると、構成要素を抜き出すところでは丁寧に細かいところまで書き出すのだが、そこからなかなか情報を捨てられず、関係を整理し、相手と目的に応じて構造に積み上げ分けることが、なかなか難しい。
きちんとしたストーリー構成の関係や構造を見つけられずに、言いたいことの説明に終始するあまり、(相手の立場に立って)そもそも何のためにやるのかが十分伝えられていなかったり、(自らの専門の範囲を超えた)説明の冒頭で相手と共有しておかなければいけないものごとが欠けたまま内容に入ったり、問題と対策、それぞれで扱うレベルが異なっていたりする。

これらに代表されるあいまいさが、結果として説明のわかりやすさや説得力を欠いてしまう。

しかし、参加者の中で欧米の文化風土や教育体系で育った、特に外国籍の人がいると、彼ら彼女らが作るストーリー構造の図は、書かれた文字はおおざっぱ、描き方もざっくりと表現されていることが多いのだが、その一方で必要な情報だけが抜き出され、それらを使って全体の構成や関連は、そこそこうまく表現されている。

こうした違いが生まれる原因は、日本の文化風土や教育体系では、
 ・全体よりも個々の部分へ関心が強く、細部や網羅性にこだわる
 ・事実を示してから結論を述べる説明方法が一般的
 ・集めた材料をすべて出して相手と一緒に判断することに慣れている

といった傾向が強いなど、いくつかのことが思い浮かぶが、いずれにしても日本の方が引き算の発想が薄いように感じる。

では足し算より引き算と言うことで、とにかく引いていけばよいかと言うと、必ずしもそうではない。

たとえば時間に合わせて、作ったスライドを何ページか抜く、あるいはビジュアル表現から材料を削除するということをしてもうまくいかない。
ただスライドを抜くだけでは、話の道筋が崩れて構成が成立しなくなってしまうし、また書き込んだ表現から情報を減らしただけでは、言いたいことが伝わる表現になるわけではないからだ。
伝わる表現にするためには、情報を organize する必要がある。

人と情報の関わりを capture、organize、communicate とすると、日本の文化風土や教育体系で育つと、 capture からいきなり communicate へと移ってしまい、organize の要素が少なくなってしまう

ここで言う organize とは、限られた時間の中で不可欠な情報をピックアップして一連の説明の流れに組み立てたり、限られたスペースの中で本質的な情報のみに絞って、それらの関連や全体の構造を視覚的に表現したりすることを含んでいる。

人と情報の関わり capture、organize、communicate

人と情報の関わり


日本の文化風土や教育体系で育つと organize の要素が少ない

日本の情報の関わり


organize の段階においては、
(1)どれだけ引いても(伝える)目的を達成することができるかを考えて情報を取捨選択する
(2)詳細情報まで掘り下げるのではなく、具体的な表現に変えられないか、要するにどういうことなのかを考えてみる
(3)自分を相手の立場に置き換えて、そうした情報を必要性を理解し、意思決定や行動変容を引き起こすかという視点でとらえなおす

ことが必要になる。



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