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この身に巣くう蟲の話

悪魔は交渉に来なかった。その代わりに私は蟲を宿した。
あの頃の私の精神は、悪魔でさえ目を背けるような惨状だったのか。

<私のペット紹介>

10年ほど前から、この身体にはある蟲が寄生している。
知人の多くは私のことを、いい人、優しい人、思いやりのある人、思慮深い人、少し変わった人、気難しそうな人、などと評価するが、これらの性質はこの蟲の繁殖によって生じた副産物、排泄物の表象にすぎない。

この蟲は人間の「闇」を食う。彼の最初のターゲットはもちろん思春期の私の「闇」であった。何処から来たのか、もしくは私が自ら創り出したのかも知れないが、誰もが病みがちなこの時代はこの蟲にとって大変居心地がいいようだ。

<人の闇・社会の闇とは>

闇(病み)に通じるものを思いつくだけ列挙してみる。

孤独感 ・虚無感 ・劣等感 ・債務感 ・焦燥感 ・不安感 ・無力感 ・社会的不満 ・欲求不満 ・虚栄心 ・苦痛 ・執着 ・苦悩 ・不服 ・不幸 ・不遇 ・憤悶 ・苛立ち ・悲哀 ・過剰なこと ・忘れたい過去 ・報われなさ ・絶望 ・不条理 ・不合理 ・救われなさ ・恵まれていること ・救われていること ・守られていること ・無為なこと ・無意味なこと ・未知への恐怖 ・存在すること ・意識があること ・考えてしまうこと ・主体的であること ・言葉を知ること ・憧憬 ・懐古 ・理解できないこと ・理解されないこと ・主観的であること ・比べられること ・絶対的でないこと ・神に劣ること ・聖人に劣ること ・大人になれないこと ・大人になってしまったこと・・・

<この蟲の名前>

この蟲の歴史は、人間の歴史であり、生命の歴史である。
人々は古くから彼らを知り、管理し、うまく共生するため、それに様々な名前を付けて呼んできた。
『仏性・慈悲・愛・仁・憶陰の心・清明心・ヤマト心』
などと。

しかし、私は彼らをただ、「蟲(むし)」と呼んでいる。
もはや巣窟となった宿主だからわかる。これは「優しさの心」などではなく、人の世に繁茂する負の情動を食って生きる、優しさに擬態した生命体だ。少なくとも、我がペットがいわゆる「仏様」のようなきらびやかな風貌ではないことは確かだ。

彼らのおかげで、私に生じた「闇」は瞬く間に消え失せる。
ゆえに私の思考はいつも神性で聖性な方に偏ってしまい、卑俗なもの、俗物的なものに興味関心を抱くことがうまくできない。彼の腹が他人の深い闇で満たされている間だけ、私は人間的になれる。だから私は”優しい”のだ。より人間的に生きるために、日々、即身成仏から逃げ続けている。


不幸も、虚無感も、嫌な過去もない私はまるで骸(むくろ)のようで、幸福であるとは言い難い。
しかし、この醜い蟲があまりにいつも満足そうで、幸せそうなので、今はとりあえずこのままで良しとしよう。

こんな陽気なことを言っていると彼らの機嫌を損ねてしまうかな。

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「蟲師」という、とてもおもしろく神秘的な漫画がある。そのオマージュとしてこの記事を書いたわけではないのだが、6年ほど前にアニメ化もしているので気になる方はぜひ見てみていただきたい。

写真は『Tome館長』様から



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